人が持つ時間は等しい。コンテンツの発信者にとっても、受信者にとっても「時間」は重要なファクターとなる。

 コンテンツの受信者側を可処分時間という観点から見ると、音声コンテンツはその最大の特徴である「ながら消費」が市場規模を押し上げる。テレビやスマホなどの目を奪うメディアと比べ、音声市場は3倍以上の可処分時間の「在庫」を持つ。一方、発信者側にとっても音声コンテンツはハードルを著しく下げる。テキストや動画などと比べ、音声コンテンツの制作にかかる手間や時間はそこまでかからないためだ。

 誰もがスマホという手軽で身近な録音デバイスを持つようになり、新たに生まれた音声市場。音声メディア「Voicy(ボイシー)」を運営するVoicy代表取締役最高経営責任者の緒方憲太郎氏による著書『ボイステック革命 ~GAFAも狙う新市場争奪戦~』から一部抜粋・再編集して掲載する。

 実はボイシーは、米グーグルのスマートスピーカー、Google Nest(グーグル・ネスト、旧称Google Home)が日本で発売された2017年当初からニュース音声を提供しているほか、米アマゾンのAmazon EchoやLINEのCLOVAとも連携している。例えばGoogle Nestで「ニュースを流して」と言ったときに流れるコンテンツの30%くらいは、ボイシーのインフラを経由して配信されている。

 コロナ禍前の2020年1月と、同年12月を比べると、これらスマートスピーカーでのボイシー再生数は2倍に増加し、月間80万再生超えとなっている。

 もう少し細かく見ると、東京都に週末の外出自粛要請が出た2020年3月下旬を境に、スマートスピーカーのニュース再生数には顕著な増加があり、自粛要請が出る前の3月16日の週と、要請後の4月6日の週を比較すると、ニュースチャンネルによって30~80%再生数が増えていた。在宅時間が増えたことで、スマートスピーカーの需要が伸びたことがうかがえる。

 アメリカではさらにわかりやすい結果が出ており、米マーケティング調査会社、Morning Consultが2020年3月31日から4月1日に実施した調査によると、スマートスピーカーを保有する人の3分の1以上が「これまでよりもスマートスピーカーを利用する時間が長くなった」と回答しているという。

 コロナ禍により、ユーザーを増やした音声サービスはほかにもたくさんある。

 オトバンク(東京・文京)が運営するオーディオブック配信サービス「audiobook.jp」は、2007年にサービスを開始。2018年ごろから大幅に会員数を増やしていたが、特にコロナ禍で利用者が増えており、2019年に100万人だった会員は、2021年1月には約170万人に伸びたという。

 アマゾン傘下でオーディオブックなどの音声コンテンツを世界10カ国で配信、数百万人のユーザーを抱える「Audible(オーディブル)」は、2015年に日本でサービスを開始し、2021年5月時点で約40万タイトル(うち日本語は約1万5000タイトル)を配信しているが、やはりここ1~2年で急速にユーザー数が増えた。

 Audibleの日本のユーザー成長率は、2020年4月までは前年同月比20%増前後で推移していたが、6月以降は60~80%超の伸びを見せており、2021年1月は前年同月の2倍に増えた。同社がAudibleを展開している10カ国の中で、日本が最も高い成長率を見せているという。

 人の声は、最も人のぬくもりを感じられる表現方法だ。新型コロナウイルスの感染拡大で、1年以上にわたって自由に人と話すことすら制限される生活が続き、人のぬくもりを感じられる音声に人の関心が向き始めたのは、自然のなりゆきと言えるだろう。

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