クラブハウスの上陸による「気付き」

 そのタイミングで上陸したのが音声SNSのクラブハウスだ。Zoomと違って画面がないので、着替えたり身だしなみを整えたりする必要がなく、何かをしながらでも気軽に参加できる。招待制、iPhoneのみの対応といったハードルにもかかわらず、人と自由に会えない生活が続き、気軽な雑談さえできない寂しさを埋めるのにちょうどいい場として、日本でも爆発的に参加者が増え、ちょっとした「クラブハウスブーム」が起きた。

 アメリカのアプリ調査会社センサータワーによると、クラブハウスのユーザーは2020年の5月には数千人程度だったが、2021年2月19日にはアプリのダウンロード数が1000万を超えた。このうち700万は1月25日以降で、日本は約150万を占める。

 ポッドキャストの場合、15分から30分程度のものも多いが、1時間程度の番組もあったりと、聴くのにも比較的まとまった時間がかかる。一方クラブハウスは、より雑談を聴くのに近く、さまざまな会話が行われているルームを少しずつのぞき見(のぞき聴き)する感覚なので、時間の長さよりもタイミングが勝負。細切れの時間でも十分楽しめる。今まで、わざわざラジオやポッドキャストを聴いたりしなかったような、隙間時間にも入り込んできた。クラブハウスのおかげで「聴く習慣」がついた人も多いはずだ。

 上陸から2、3カ月がたつと、当初のブームは沈静化したものの、多くの人が音声の可能性に目を向けるきっかけになった。クラブハウスで話してみて、これまでのテキストや動画での発信と、音声による発信の違いに気付いた人も多いだろう。

 また、誰もが目の疲れを感じていたのではないだろうか。一日中パソコンやスマホの画面を凝視し続ける生活には限界がある。特にコロナ下のリモートワークでは、「Zoom疲れ」という言葉が聞かれたように、映像コミュニケーションを負担に感じたり、パソコン画面を見続けることに疲れたりして、画面から離れ目を休ませたいというニーズも増えたようだ。

 当初は、「クラブハウスが出てきたせいで、日本の音声サービスは危ないんじゃないか」「海外サービスに蹂躙(じゅうりん)されるんじゃないか」といった意見をよく見かけたが、たくさんの人がクラブハウスを使い、特性について理解を進めるにつれ、そうした意見は聞かれなくなってきた。むしろ、クラブハウスによって日本の音声業界は活性化したし、私もそうしたメッセージを意識的に伝えてきた。

 ボイシーについても、当初は「クラブハウスは競合になるのではないか」という見方をしていた人が多かったが、私自身は相乗効果を得られる相手だということを実感している。それはデータにも表れており、ボイシーのユーザー数はクラブハウス上陸前に比べて、3カ月で2.5倍になった。また、リスナーが増えただけでなく、「ボイシーでしゃべりたい」という人も増えた。

 それは数字にもはっきり表れている。クラブハウスは、「誰かとしゃべりたい。人の声が聴きたい」という欲求は満たしてくれるが、やはり発信者にしてみると物足りなさが残る。話したことが残らないと、自分の世界観を表現し、維持したいという欲求は満たされないからだ。

 ボイシーはおそらく、「自分の声を残しておきたい」「自分の場所をつくりたい」「フォロワーの反応も知りたい」といった欲求を持った発信者や、「クラブハウスで話すことの楽しさを知り、もっとやってみたくなった」という人たちの、受け皿になったのだと思う。

 クラブハウスブームの数カ月前までは、1カ月に5人くらいしか新しいパーソナリティーを増やしていなかったが、2021年2月には一気に50人ほど増えた。パーソナリティーへの応募数自体が増え(パーソナリティーは応募者の中からボイシーが選考している)、かつそのレベルも上がったからだ。

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