ポッドキャストに目をつけたスポティファイ

 注目すべきは、スポティファイが2019年に、ポッドキャストコンテンツの制作スタジオGimlet Media(ギムレット・メディア)とParcast(パーキャスト)の2社を買収し、オリジナル番組で差別化の勝負に出たことだ。さらに配信サービスのAnchor(アンカー)、広告プラットフォームを展開するMegaphone(メガフォン)、スポーツやポップカルチャーの番組を得意とするThe Ringer(ザ・リンガー)などを次々と買収している。

 また、オバマ元大統領夫妻、世界1位のポッドキャスト番組を運営するコメディアンのジョー・ローガン、イギリスのヘンリー王子とメーガン妃らと相次いでポッドキャストの独占契約を結んでいる。スポティファイの担当者は、音楽よりも(ポッドキャストのような)音声コンテンツの方が課金につながりやすいという趣旨の発言をしている。同社が、「音楽の次」のコンテンツとして、ポッドキャスティングをターゲットとしているのは明白だ。

 前述の通り、アメリカのポッドキャスト市場は急速に成長しており、今やアメリカの12歳以上の人口の37%がポッドキャストを聴いているとの試算もある。ポッドキャストの広告市場も急拡大しており、2021年は10億ドルを超えて、3年前の3倍近くになると予測されている。良質な音声コンテンツがリスナーを増やし、さらなる投資を生むという好循環が起こっていると言えそうだ。

広告よりも有料課金が大きい中国

 もともと中国では、文字入力の煩雑さなどから音声入力のニーズが高く、音声認識の技術も進んでいた。そして現在の中国のポッドキャスト市場は、有料コンテンツのユーザーの多さが一つの特徴となっており、その規模は70億ドルと、アメリカの音声市場(130億ドル)の半分以上にも達する。広告市場よりも、有料課金コンテンツ市場の方が圧倒的に大きい。

 中国では人口の29%がインターネットアクセスを持つとされているが、そのうちの53%が月に最低1回はポッドキャストを聴いていると推計されている。多くのユーザーが、ビジネスやプレゼンテーションスキルなどの学習コンテンツを有料で購入している。

 主なプレーヤーを見てみよう。

 中国の音声配信サービスでトップシェアを占めるのが、日本版の名称としては「himalaya(ヒマラヤ)」で知られる「シマラヤFM」だ。中国では6億以上のアプリダウンロード、月間1億1000万のアクティブユーザーを持つ。配信者は約600万人で、主にプロのクリエイターが配信するPGC(Professionally Generated Contents:プロ生成コンテンツ)が中心だ。

 ヒマラヤは、版権を取得して音声化した作品を提供することで、優良な音声コンテンツを提供してきた。ユーザーは、音声コンテンツのリスナーとなるだけでなく、ヒマラヤが版権を持つコンテンツを音声化する配信者としても参加できる仕組みだ。例えば、人気の小説投稿サイトとヒマラヤが提携し、権利を取得した小説をヒマラヤ内で公開。ユーザーはその小説を音声化して配信する。ユーザー投票によって選ばれた配信者には報酬が支払われる。

 さまざまな課金システムがあり、コンテンツの単品販売、月額料金によるサブスクリプション、投げ銭(ギフティング)などがある。ユーザーと配信者がコミュニケーションを取ることもできる。

 チンティンFM(QingTing FM、以下チンティン)も、ヒマラヤと同様にPGCが中心。スマートスピーカーやインターネットテレビ、5G搭載の自動車などのハードウエア製品と提携してユーザーを伸ばしているのが特徴だ。アクティブユーザー数は月間1億3000万。ヒマラヤはスマホアプリが中心だが、チンティンはこうした多様なハードウエアを介した戦略を取っている。チンティンもヒマラヤと同様、配信者に報酬を支払ってコンテンツの充実を図っている。2019年には1年間で1000万元(約1億5000万円)を売り上げた作品が登場したり、プロではない配信者の作品が3カ月で100万元(1500万円)を売り上げたりしている。

 ライチFM(Lizhi FM)は、ヒマラヤやチンティンとは異なり、素人のオリジナル作品を中心とした音声配信サービスだ。ユーザー層は若者が多く、1990~2000年代生まれの若者がユーザーの約60%を占めている。約590万人のアクティブ配信者による1億7000万本以上のコンテンツが公開されており、アクティブユーザーは月間5100万人に上る。中国最大のUGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)音声コミュニティーだ。

 インタラクティブ性が強く、配信者とユーザー間のコミュニティーとなっている面があり、インスタグラムやユーチューブに近い特性を持っていると言える。ライブ配信では投げ銭課金の売り上げが伸びている。2020年1月には音声配信サービスで中国初のナスダック上場を果たしている。

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