耳に装着した小型コンピューター

 実は、ボイステックの未来にとって、スマートスピーカーよりも大きなインパクトがあるのが、ワイヤレスイヤホンの普及だ。ワイヤレスイヤホンとスマホを連携させているということは、手元よりもっと近い、耳元に、常にSiriやGoogleアシスタントがいることになるからだ。

 ワイヤレスイヤホン普及のきっかけとなったのは、アップルが2016年に発売した「AirPods(エアーポッズ)」だが、これは単に、イヤホンがワイヤレスになったというだけではなかった。音源(多くの場合スマホ)とコードでつながれているというわずらわしさから解放されただけでなく、イヤホンにマイクや簡単なリモコン機能も搭載しているからだ。

 2017年にはグーグルも、Googleアシスタントやリアルタイム翻訳機能に対応した「Pixel Buds(ピクセル・バッズ)」を発売。アマゾンも2019年に、Alexa(アレクサ)に対応した「Echo Buds(エコー・バッズ)」を投入している。これらのワイヤレスイヤホンは、音声を聞くだけのためのものではなく、耳に装着した小型コンピューターのような役目を果たすようになってきている。

 富士キメラ総研によると、ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンの世界市場は、2019年が2億1000万台で、この先2025年には5億7100万台(2019年比2.7倍)になるとの予想だ。国内については、2019年の市場は1300万台で、前年の約1.6倍に拡大。2021年には1680万台になると見込む。

 この流れは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴うリモートワークの広がりにより、オンライン会議目的や、仕事をしながらの「ながら聴き」需要もあって加速している。音響メーカーや家電メーカーの参入も相次ぎ、音質の向上はもちろん、まわりの雑音を遮断するノイズキャンセリング機能の競争も激しい。

 途中で誰かに話しかけられると、それまで聴いていた音楽やポッドキャストを停止して外の音を取り込む機能、雑音があるところでもオンライン会議の相手の声を聴きやすくし、また、自分の声をクリアに相手に届ける機能など、「一日中ずっとイヤホンを外さなくても済むための機能」の開発も進む。

 ワイヤレスイヤホンの普及は、「いつも耳にイヤホンを入れっぱなし」の人を増やすことになり、「絶えず何かを聴いている」という習慣を広めることにもなっている。テキストや画像、動画などと比較したときの、音声の最大の特徴は、何か別のことをしながらの「ながら聴き」ができる点にあるが、ワイヤレスイヤホンによってさらに「ながら聴き」が簡単にできるようになり、音声コンテンツ市場の盛り上がりに大きく貢献することになった。

 情報化社会では、人が生活の中で情報に触れるファーストタッチをどの端末が握っているかは、市場の覇権を握るプレーヤーを決めるうえでとても重要だ。新聞からその覇権を奪ったテレビも、情報を得たいときすぐ出せるスマホに場所を譲ってしまった。

 常に耳に挿さったままのワイヤレスイヤホンが、小さな声でつぶやくだけで反応し、インターネットにつながる。人の情報へのファーストタッチは、スマホからさらに手軽なワイヤレスイヤホンになる。数年後には「昔は天気やニュースを知るのにわざわざスマホを出してアプリを開いてたの? 大変だったんだね」と言われる時代がくるだろう。

 スマートスピーカー、ワイヤレスイヤホンなどは、「聴くためのデバイス」の選択肢を広げただけでなく、音声OSともいえる音声アシスタントが人間のすぐそばに常駐する状態をつくった。こうした背景が、音声市場の拡大を後押ししているのだ。

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