デバイスの進化が「聴き方」を変えた

 ここ数年で、「聴く」人口が増えた大きな理由の一つが、革新的なデバイスの普及だろう。例えば、前述のスマートスピーカーと、ワイヤレスイヤホンだ。

 アメリカでのスマートスピーカーの普及率についてはさまざまなデータがあり、2018年についても28%から41%まで幅がある。2021年現在はここからさらに普及しているとすると、アメリカにおけるスマートスピーカーは、既に「新しいもの好きのユーザーだけが使うもの」という段階を超え、市場に幅広く行き渡りつつある(キャズムを超えた)段階だと考えてよいだろう。シンガポールの調査会社Canalys(カナリス)によると、スマートスピーカーはウエアラブルデバイス(スマートウオッチやリストバンド)を抜き、2021年にはタブレットをも追い越すと予想されている。

 一方、日本においては、市場投入がアメリカから3年程度遅れたこともあって、まだアメリカほど普及は進んでいない。

 総務省情報通信政策研究所が1500人を対象に行った調査によると、2019年度にスマートスピーカーを持っていたのは15.6%。野村総合研究所(NRI)のデータでは2019年の普及率は7.6%、電通デジタルの2018年の調査では約6%となっている。

 現在の所有者は、まだ新しいもの好きのユーザーが中心だとみられるが、これから普及が加速するところだろう。NRIは普及率が2023年に24.4%、2025年には39.0%に達すると予測している。

 スマートスピーカーが出てきた当時、私は「そうきたか」とびっくりした。IoT(モノのインターネット)技術の進展から、いずれ冷蔵庫や洗濯機など、あらゆるものに音声アシスタントが組み込まれていくのではないかと思っていたからだ。

 WindowsやiOS、アンドロイドなどと同様、「音声のOS」としてさまざまな機械に入り込み、あらゆるハードウエアやソフトウエアを声による指示で操作できる時代になる。そう考えていたところに、音声による指示を受け止めるだけのデバイスであるスマートスピーカーが出てきた。

 おそらく将来は、マートスピーカー的な機能は、身の回りに見えない形で「染み込んで」いくだろう。しかし今は過渡期なので、まずは人の声による指示を認識し、BluetoothやWi-Fi(ワイファイ)でつながる家電を操作するための中継デバイスとして、スマートスピーカーが登場したというわけだ。

 日本では、スマートスピーカーはまだそれほど普及が進んでいないが、使っている人の間では、「もうこれなしの生活は考えられない」というほどに定着し、生活の中に入り込んでいるのではないかと思う。一度声による操作が当たり前になった人は、これからもずっと使い続けるだろう。

 インターネットの便利さを知った人が、今さら手紙と電話、ファクスだけの生活には戻れないように、「声で操作できる音声のOS」は、もう廃れるという方向には進まないはずだ。

 そもそもスマホを持っている人は、手元にSiriやGoogleアシスタントがあるのだから、もはやスマートスピーカーを身に着けているようなものなのだ。「えー? おじいちゃんやおばあちゃんの時代にはいちいちスイッチを押してテレビやエアコンを操作していたの?」と驚かれる時代になるのも、そう先の話ではない。

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