インターフェースの呪縛は強い。スマホが登場した際、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)に慣れ親しんだ人々を前に日本企業の多くはこの変化を見誤り、米企業の後じんを拝した。パソコンが登場したのが約30年前であることを考えると、インターフェースが変化するスパンはどんどん短くなっていく一方だ。スマホですらいつまでも人々の生活の中心にあるデバイスとして君臨し続ける確証はない。

 VoiceTech(ボイステック)革命がこのタイミングで起きようとしているのは半ば必然だ。音声解析技術の飛躍的進化によって、音声データが単なる「データの山」から「宝の山」に変わりつつあることに加え、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホンといったデバイスの進化が音声と人々の距離をぐっと縮めている。

 話す人口の相対的な少なさや言語としての特殊性から、今はまだ参入障壁に守られている日本語市場。このインターフェースの大転換期に、日本企業はまた同じ轍(てつ)を踏むのだろうか。音声メディア「Voicy(ボイシー)」の緒方憲太郎氏の著書『ボイステック革命 ~GAFAも狙う新市場争奪戦~』から一部抜粋・再編集して掲載する。

 新しいインターフェースが生まれると、多くの人が毎回、「もうこれ以上の発展はないだろう」と考えてしまう。パソコンが登場し普及したときには、「情報を発信し、受信するうえで、これが行き着く最高の形だ」と、無意識のうちに思い込んだ。

 そこにとらわれてしまうと、次に現れたスマホも、単なるパソコンの延長線上、つまり「パソコンの小型版」としか見えなくなる。こうして、目の前にある、使い慣れたインターフェースに縛られ、世の中を席巻していく新たな潮流に乗り遅れてしまった企業を、スマホが登場したときに私たちはたくさん見ているはずだ。

 パソコンの登場は約30年前、スマホは約10年前。しかし、これほどインターフェースが変化するスパンがどんどん短くなっている中で、あと10年もスマホの独壇場が続くはずがない。

 スマホが登場したとき、それまでのパソコン中心のビジネスから転換を図るのが遅れて苦戦した日本企業はたくさんあった。今、またそれと同じことが起きてしまう可能性がある。新しいインターフェースを、またしてもGAFA(米グーグル、米アマゾン・ドット・コム、米フェイスブック、米アップル)などの海外企業が押さえてしまうことになってもいいのだろうか。

 情報には大きく分けて2種類ある。テキストや画像、動画などの「手で作って目から入れる情報」と、音声という「口で作って耳から入れる情報」だ。前者については、ネット上にあるものをクローリング(機械的に読み取って収集)するグーグルが一気に押さえた。しかし後者の音声は、まだ誰も押さえていない。一体、この分野の覇者は誰になるのだろうか?

 テキストや画像、動画の時代、スマホの時代がしばらく続いたが、なぜ今、ボイステック革命がこのタイミングでやってきたのか。

 これはもちろん、突然起こったことではない。小さくささやかな流れが何年も前から続いており、そこに少しずつ新たな流れが合流して大きくなり、大河になる直前にあるのが今だ。長い助走期間中に、テクノロジーの進化、コンテンツの充実、デバイスの登場、人々の「聴く」習慣の変化などが起こったために、広大なブルーオーシャンがようやく目の前に開けてきたのだ。

 あちこちに予兆は起きており、萌芽(ほうが)の兆しは見えているものの、音声分野のマネタイズはごく一部にとどまっているし、キラーコンテンツも日本ではそれほど生まれていない。まだまだ未発達の市場だ。成長の可能性は大きい。

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