新型コロナウイルスのまん延に伴い、世界的に不確実な景気動向が続く。多くの企業の新卒採用は多大な影響を受けている。2008年に起きたリーマン・ショック時は、すべての業界が影響を受け、企業は採用を控えた。今まさに渦中にあるコロナ禍でも、採用人数を大幅に削減したり、あるいは採用そのものを取りやめたりした企業も少なくない。
今回、そうした新卒採用をゼロにした企業のその後に迫る。目先の人件費カットは実現できたものの、今になって困った状況になっているという。
新卒採用を中止した航空、観光、飲食業界
コロナ禍の影響は業界ごとに度合いがかなり異なるが、皆さんご存じの通り、特に航空、観光、飲食業界が受けた打撃は顕著だ。
観光庁の「令和3年版観光白書」および総務省統計局の「労働力調査」によると、2019年から20年までの1年で、宿泊業に従事する正規雇用労働者は26万人から24万人に、同じく非正規雇用労働者は33万人から28万人へと減少している。宿泊業の事業者は経営悪化により雇用維持が難しいばかりか、新規採用などとてもできるような状態ではないことがうかがえる。
今後の見通しとして、Go To トラベル事業の再開やワクチン接種率の向上などにより、需要拡大の予測もなされている。直近ではオミクロン型が猛威を振るうものの、ワクチン3回目接種や、コロナ禍による自粛の反動で消費意欲を爆発させる「リベンジ消費」へ期待を寄せる経営者も多い。
そもそも既存社員が転職してしまったが、補充しないまま現在に至っている企業も目立つ。
今後の繁忙の予測から、早急に人材を確保すべく、ホテルや旅行会社がこぞって23年卒の新卒採用を再開している。
例えば、就職人気企業ランキングの常連だったANAホールディングスは、客室乗務員の採用は見送ったものの、総合職など一部の業種で採用を再開。
コロナ禍でも採用を続けた星野リゾート・マネジメントは、学情の「就職人気企業ランキング」で前年92位から21位へと、大きく順位を上げた。JTBグループ(31位)よりも上位に食い込み、コロナ後を先取りするような動きを見せている。
航空、観光、飲食業界は今年、採用を一時取りやめたことによる弊害に直面している。コロナ禍でインターンシップを含めた採用活動の早期化やオンライン化などの変化が起きたため、コロナ前の採用ノウハウが陳腐化。初めての取り組みも多く、困惑しているのだ。
景気がどんなに厳しかろうが、どうしてもこの業界に入りたいと熱望する学生は一定数いる。だが、それに頼るだけでは人数確保は難しい。
就職活動をする学生の多くは、仕事の実態を知らない。ホテルであれば、フロントに立つホテルマンのイメージが強く、「60歳になるまでドアマンとしてドアの開け閉めと顧客対応が仕事」と勘違いしている人もいる。いざホテルに入社してどんな仕事をするのか、イメージが湧かないのだ。
実際には、集客のための企画の立案や、インバウンドに向けた海外ツアーの調整、法人利用を促進するための営業活動など、ホテル運営には接客以外の仕事が数多く存在している。
そうしたギャップを埋めるために、インターンシップや会社説明会、OB・OG訪問や職場体験などを実施するわけだ。それが20年と21年は、ほとんど中止になった。こうした状況のままで23年卒の採用活動をしても、期待に沿った人は集まりにくいだろう。
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