客とベンダーによる丸投げのなれの果て
いずれにせよ、この記事の冒頭で書いた通り、この事件は「客によるITベンダーへの丸投げと、人月商売にありがちなITベンダーによる現場丸投げのなれの果て」を示すものである。今回の報告書はある意味、ITベンダーへの究極の丸投げの実態を明らかにしたといってよい。BIPROGY側の常駐技術者のやりたい放題、いいかげんな仕事の数々をこれでもかというほど描き出しているが、その分、尼崎市のIT部門などの丸投げぶりが明白になったわけだ。
ITベンダーへの委託は、究極の丸投げに至る何段階かのレベルがある。本来なら自分たちがやらなければいけない仕事を外部委託しても、IT部門がそのことを自覚しているのならば丸投げにはならない。しかし、自分たちがやらなければいけない仕事という自覚を失って、何でもかんでも委託するようになれば、これはもう丸投げの域だ。それでもベンダーマネジメントぐらいはやると思うが、それもやらなくなったのが究極の丸投げといえる。「任せたから、うまくやってね。後はよろしく」である。
今回のケースでは、市民の個人情報を扱う仕事なのだから、本来なら市の職員であるIT部員がやらなければならない。その仕事を外部委託したのだから少なくとも、請け負ったITベンダーがどのような体制で業務を遂行しているのか、セキュリティー面で問題はないのかなどを、それなりの管理工数を取って確認しなければならない。だが、そんなベンダーマネジメントやセキュリティーマネジメントをやらず「任せたから、よろしく」状態なのだから、これはもう究極の丸投げといえる。
一方、人月商売にありがちなITベンダーによる現場丸投げのなれの果てかどうかについては、まだ完全に断定できない。何せBIPROGY側の調査報告書がまだ出ていないからな。上層部が実態を把握したり関与したりしていた可能性はゼロではない。ただし、そんなことをしていれば完全にアウトだし、人月商売の体質からすると客先などの現場を放置状態にするのは、極めてありがちなことだ。つまり、ITベンダー側もマネジメントレスというわけだ。
で、放置状態となった現場の技術者はやりたい放題、いいかげんな仕事のオンパレード……。ただ、こう書くと少し気の毒かもしれない。システムの保守運用など客先での仕事は、客の要求を「うまく処理する」ことが基本だ。無理難題であっても、人員面や予算面で厳しくとも、現場で何とかしなければいけない。何せ放置状態だからな。何とかするための工夫の結果、「やりたい放題」に行き着いたのかもしれない。もちろん、なぜこんなにいいかげんな仕事をしたのか、その理由が明らかになっていないので何とも言えないのだが。
うーん、ここまで書いてきて、ふと気がついたのだが、今回の記事は「暴論を装って正論を書く」という極言暴論の「ルール」を完全に無視して、正論調で押し通してしまった感じだな。言い訳すれば、それだけこの事件に対する私の関心が強いということだ。「客による丸投げと、人月商売ベンダーによる現場丸投げのなれの果て」問題は、何も尼崎市に限った話ではなく、ほぼ全ての公共機関、そして多くの企業に共通する問題だ。類似の事件がいつどこで起こっても不思議ではない。
そんな訳なので、この衝撃的な事件の根本原因を徹底的に究明することで、多くの公共機関や企業に共通する大問題の改善へ向けての糸口になればと思っている。だからこそ、調査報告書はまともなものでなくてはならない。蛇足ながら駄目押しとして付け加えておくと、当事者である技術者たちよりもはるかに罪深いのは、放置状態にしたBIPROGYや尼崎市のマネジメント体制のほうだからな。
[日経クロステック 2022年12月12日掲載]情報は掲載時点のものです。
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