ITベンダーが吸う甘い汁の中身とは

 さて、シマを守り続けたITベンダーはシステム保守運用で甘い汁を吸うわけだが、記事の冒頭で書いたように、SIerの公共部門が驚くほどの利益を上げているという事実は見当たらない。他のITベンダーが入り込めない「聖域」をつくってしまったら、競争原理は働かないわけだから、パッケージソフトウエアやクラウドを売る外資系ITベンダー並みの営業利益率をたたき出しても不思議ではない。だが、SIerの決算のセグメント情報を見ると、公共部門の営業利益率は他の部門と似たようなものだ。これはどういうことか。

 実は、からくりは単純だ。SIerのビジネスが人月商売であることを思い出せば、すぐにピンとくるはずである。保守運用で甘い汁を吸うには工数を増やせばよいが、工数が増えればシステムに張り付ける技術者の数を増やす必要がある。従って営業利益率が高まることはないわけだ。ただし、工数を増やせば技術者の数を増やせる。そうすれば、仕事のできない人も含め多くの技術者の仕事を確保できる。

 以前、こんな話を聞いた。あるITベンチャーが諸般の事情で、行政機関のシステム保守運用に下請けとして入ることになった。で、そこで見た光景はあまりに非効率な世界だったという。ITベンチャーはよかれと思い、ツールを使った作業の効率化を提案したら、SIerや他の下請けITベンダーの技術者たちが激怒した。「おまえたちは我々の仕事を奪う気か」とまで言われ、あまりにばかばかしいので、その仕事から手を引いたそうだ。

 そういえば、先ほど「システム開発では客の無理を聞きまくる」と書いたが、それはあくまで客の無体な要求、むちゃな依頼を聞くということにすぎない。客が正当な要求、例えば「クラウド移行について提案をしろ」などといった要求だと、たちまち対応が鈍くなる。実際に、ある大規模自治体がシステム刷新に当たってクラウド対応を求めたら、大手SIerであるにもかかわらず「やったことがないのでできない」との回答が返ってきたそうだ。

 たとえSIerのその部隊に経験値がないにしても、社内を探せばクラウド移行を手掛けた技術者は大勢いるはずだ。にもかかわらず「無理」との一点張りだったという。このSIerに拒否の意図を直接確認できなかったが、自分たちの仕事のやり方を変えたくなかったのだろう。リスクを取らずにシステム刷新を済ませ、非効率で工数多めの保守運用を続けたい。恐らくそんなところだ。ベンダーロックイン状態ならば、行政機関はこんなばかげた状況を甘受するしかない。

 最後に、どうすればベンダーロックインを解消できるかを考えてみよう。ITベンダーによる悪行という観点からITベンダー独自の仕様にのみ着目していては、問題解決は不可能だ。例えばシステム間連携の仕組みで独自仕様を廃し、新システムの案件で他のITベンダーが参入できるようにしたとしよう。すると、どうなるか。数年後のシステム刷新の際には、そのシステムを開発したITベンダーが再び落札するはずだ。つまり、システムごとに別のITベンダーがロックインする。私はこれを「マルチベンダーロックイン」と呼ぶ。

 要は客独自の仕様も何とかしない限り、ベンダーロックインは解消されないのである。結局のところ月並みだが、素人集団のIT部門をまともにするしかない。プログラミングなどの技術面やプロジェクトマネジメントに加えて、所属する行政機関の業務に精通したIT人材が必要なのだ。えっ、そのためにデジタル庁ができたのではないかって? そりゃデジタル庁を買いかぶりすぎだ。あんな少人数で、しかも各省庁や自治体の外側から関与するだけでは、ベンダーロックインなど解消しないぞ。問題は各行政機関のIT部門だ。

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発 行:日経BP

[日経クロステック 2021年12月13日掲載]情報は掲載時点のものです。

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