むしろロックインされたがる行政機関の愚

 この客独自の仕様が原因で生じるベンダーロックインは、素人集団で組織内での立場が低いIT部門と、「あれをつくれ」「これがないと嫌だ」などとわがままを並べ立てる利用部門、そして「おっしゃっていただければ、何でもつくりますよ」というご用聞きのITベンダーの組み合わせによって生じる。その意味で行政機関は、この手のベンダーロックインが生じやすい。何せ客が企業の場合と比べ、利用部門は超わがままだし、IT部門は吹けば飛ぶような存在。そしてITベンダーは「お上」が相手なので一段とへりくだるからだ。

 特に行政機関でこの手のベンダーロックインが生じる理由については、以前の極言暴論の記事で詳しく書いたので、ここでは改めてくどくどと書かずにポイントだけを指摘しておこう。素人集団である行政機関のIT部門は、システムの開発はもとより保守運用もITベンダーに丸投げするしかない。で、行政機関のIT部門は何をやっているかというと、利用部門のシステムに対する要望を聞いてITベンダーに伝える「窓口業務」のみである。

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 このような丸投げを続けていると、当然のことながらIT部門はシステムの中身を分からなくなってしまう。そしてシステムの中身が分からなくなることで、自らの組織の業務プロセスについても把握できなくなる。利用部門の役人らが業務を知っているかというと、自分が関わる業務だけなら知っている。部門間にまたがる業務プロセスを知っているわけではない。では、誰が行政機関の業務プロセスを把握しているのかといえば、もちろんシステムの面倒を見ているITベンダーの技術者たちだ。

 つまり、既存のシステムを担当するITベンダーの技術者が撤収してしまえば、システムの中身どころか役所の業務を把握する人がいなくなってしまう。客独自の仕様を知る人がいなくなるわけだ。IT部門にとっては恐るべき事態だ。だからシステム刷新では、いくら一般公開入札であっても現行のITベンダーが失注する事態はあってはならない。調達仕様書が現行のITベンダーに有利になるよう記載されているとよく言われるが、ある意味、それは当然のことなのだ。

 かくのごとしで、客独自の仕様はITベンダー独自の仕様よりも強力なベンダーロックインを生み出す。しかも、客独自の仕様が原因のベンダーロックインの場合、客がベンダーロックインを求めるという奇妙な状況をつくり出す。ITベンダー独自の仕様によるベンダーロックインの場合、ITベンダー側が原因をつくり出し、客は他のITベンダーに乗り換えたくても乗り換えられない状態となる。一方、客独自の仕様によるベンダーロックインは、客の行政機関、より正確には担当のIT部員がロックインされたがるのである。

 で、行政機関の場合、どちらが多いかというと客独自の仕様が原因の場合が圧倒的に多いはずだ。なので、ベンダーロックイン問題に関しては、極言暴論ではITベンダーをそれほど非難してはこなかった。むしろ、自らロックインされたがる行政機関の愚かさをメッタ斬りにしてきた。ただITベンダーが無罪放免かというと、そんなことはないぞ。何せ彼らは長年にわたって甘い汁を吸い続けてきたのだからな。

 よく知られているように、SIerら人月商売のITベンダーの公共向け、行政機関向けのビジネスの基本は、システム開発で客をシマとして確保・維持し、システム保守運用で安定的にもうけるのが基本だ。そんな訳で、システム開発では昔の1円入札のような超安値で請け負うことはさすがになくなったが、客の無理を聞きまくって、多少なら赤字プロジェクトになるのも許容する。その先に何年にもわたる保守運用という甘い汁が待っているからだ。

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