
デジタル庁の発足など行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)が動き始めるに従って、古くからある例の問題にも改めて関心が集まるようになった。その問題とはベンダーロックインである。公正取引委員会が行政機関におけるベンダーロックインの実態調査に乗り出していることもあり、客のシステムにへばりついて甘い汁を吸うSIerらITベンダーの「悪行」があぶり出されそうな雲行きである。
言うまでもなくベンダーロックインとは、特定のITベンダーが独自仕様のシステムをつくることで行政機関やユーザー企業を囲い込み、他のITベンダーの参入を難しくする行為をいう。だから、ITの世界に詳しくない世間の人がベンダーロックインの話を聞くと、ITベンダーは悪そのものであるとの印象を持つ。ロックインしている対象が民間の企業なら、第三者にとっては知ったことではない。お好きにどうぞ、といったところだ。しかし、これが行政機関ならば、国民全員が当事者となるから放ってはおけない。
何せ行政機関がITベンダーに支払っているお金の原資は国民の税金だからな。ITベンダーが独自仕様を武器に行政機関を囲い込み、無競争状態にすることで暴利を貪っているとしたら許しがたい。そもそも行政機関のシステムの調達は、一般競争入札が原則である。にもかかわらず、独自仕様という参入障壁を築くことで、行政機関を囲い込んでいるITベンダーのみが入札する「1者応札」が横行している。誠にもってけしからんことである。
しかも、独自仕様で他のITベンダーを排除するというのならば、ITベンダーと客である行政機関の担当者は結託していなければならない。何せ調達仕様に基づいて入札を実施するのは、行政機関の側だからな。もしそうであるならば、これはもう犯罪的行為である。時代劇にあるではないか。「○○屋、お主も悪よのう」。そう、ITベンダーは代官に取り入って甘い汁を吸う悪徳商人といったところだ。
実はここまでの記述は、ベンダーロックインが世間の人からどう見えるか、そのイメージについて述べたにすぎない。つい先日も、IT業界以外の人にベンダーロックインの話をしたら、その人から「時代劇の『お主も悪よのう』と同じですか」と聞かれてしまったが、もちろんそんな贈収賄の話は聞かない。そもそもSIerの公共部門が驚くほどの利益を上げているという事実もない。後で書くが、甘い汁を吸っているのは事実だ。ただ話はもっと複雑である。
そもそもシステムにおける独自仕様とは何か。実は独自仕様には2種類あるのだが、これが世間では全く理解されていない。公取委のドキュメントを読むと、公取委ですら十分に理解していないのではないかとの疑念が湧く。では、2種類の独自仕様とは何かと言うと、「ITベンダー独自の仕様」と「客独自の仕様」だ。当然と言えば当然かもしれないが、世間も公取委も前者ばかり目を向ける。しかしそんなことでは、強力なベンダーロックインがかかる原因を理解することなどできないぞ。
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