メーカー落ちぶれ組のSIer が猿まねすべき企業とは

 さて、メーカー落ちぶれ組のSIerだが、もちろん栄光の国産コンピューターメーカーの名残(本当は「残りかす」と言いたいが、さすが失礼過ぎるのでやめた)はある。ハードウエアやソフトウエアなどをつくって販売しているから、今でもコンピューターメーカーと言えないことはない。だが、1990年代半ばあたりから製造業としては没落し始めて、SI(システムインテグレーション)という名の受託ソフトウエア開発が主力事業となる。ご用聞き商売、人月商売の親玉となったわけだ。

 社名を出さないで「落ちぶれた」などと言っているのも感じが悪いので、はっきり書いてしまおう。メーカー落ちぶれ組とは、もちろん富士通、NEC、日立製作所のことだ。日立は最近「IT×重電」などでDX(デジタルトランスフォーメーション)に成功しつつあるとの評判だが、私は留保をつけさせてもらう。IT部隊だけを見ればSIerであることに変わりがないからだ。この3社にNTTデータを加えた4社が、ハイテク産業のふりをした労働集約型産業であるIT業界で親玉中の親玉として君臨しているわけだ。

 そんな訳なので、メーカー落ちぶれ組のSIerも完全にご用聞き商売、人月商売の毒がいろんなところに回ってしまった。だからこそ、記事冒頭のメーカー落ちぶれ組のSIerの人の話を聞いて、私が「そんなことを言うぐらいのレベルまでに落ちてしまったか」と思ったわけだ。だって、そうだろう。いやしくも栄光の国産コンピューターメーカーだったのだから、本来なら「昔のように自らの製品やサービスを提供できるようにならなければ」と言うべきところだ。すっかり毒が回って、自らの原点を忘れてしまったのだろう。

 もう1つ言っておけば、なぜ「GAFAを見習って」などと言うのであろうか。栄光の国産コンピューターメーカーだった頃は「IBMを見習って」と言っても、違和感はなかった。何せIBMメインフレームの互換機をつくるほどの猿まね力があったからだ。だが今のGAFAはメーカー落ちぶれ組のSIerにとって雲の上のまた上の存在。見習おうにも、猿まねしようにも、どだい不可能だ。「GAFAを見習って」と言ったところで、結局は「GAFAを見習うような能力はありませんでした」ということにしかならないだろう。

 そもそも、なぜもっと手近な例を猿まねしようとしないのだろうか。つまり、自分たちの客から「商いの道理」を学べばよいではないか。SIerの客である日本企業の多くは、GAFAのような巨額な投資や派手なマーケティングはできないとはいえ、リスクをとって投資し、きちんとマーケティングをして自らの製品やサービスを提供している。そんな「お客さま」に学ばせていただくわけだ。メーカー落ちぶれ組以外のSIerも含め、そんなところから企業としてのリスキリング(学び直し)に取り組んだほうがよいぞ。

 SIer、そして下請けITベンダーの人月商売がアカンところは、単にハイテク産業のふりをした労働集約型産業として、技術者を酷使し使い捨てにすることだけではない。前回の記事でも多少触れたが、経営が堕落してしまうことも大問題だ。何せ客のご用、つまり利用部門のどうでもよい要求を聞いて仕様を膨らませるだけでもうかる。自らリスクをとって投資とマーケティングをして、潜在的な客に受け入れてもらうといった活動が一切不要だ。

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 本来、ご用聞き商売、人月商売であっても多少はマーケティングが必要なはずだが、現実にはほとんど無用だ。一度、客にへばりついてしまえば、よほどのことがない限り切られることはないからな。それに製品やクラウドサービスなどを提供する外資系ITベンダーがある意味、マーケティングを「代行」してくれる。SIerは彼らの販売代理店として活動すればよい。で、客の望むままにカスタマイズなりアドオン開発などにいそしめばよい。メーカー落ちぶれ組のSIerに回った毒とはこのことである。

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