技術者はお金を生む単なる労働力
要するに、人財などという言葉を使っている企業にとって、社員とは労働力というもうけの源を生み出す材料であり、その意味で自社の財産なのだ。当たり前の話だが、企業にとって材料も立派な財産(棚卸し資産)だしな。結局のところ「社員は材料ではない」と否定してみせたにもかかわらず、間抜けなことに「社員は棚卸し資産だ」と同じようなことを言っているにすぎないわけだ。
かなり一般化して書いてきたので、人月商売のIT業界以外で、ついうっかり人財という言葉を使っている企業の中には、ここまで読んで非常に不愉快な気持ちになっている人たちが数多くいるかもしれない。確かに人月商売と同じような形態であっても、社員を真の意味での人材、つまり才能や能力のある人として処遇しないとやっていけないような企業もある。例えばコンサルティング会社などだ。もちろんコンサル会社はピンキリなのだが、少なくともまともな企業なら社員を人材としてきちんと処遇しているはずだ。
ちなみに「人月商売と同じような形態」としたのは、コンサル会社の契約形態は主に準委任契約だからだ。つまり、人月商売のIT業界のSES(システム・エンジニアリング・サービス)契約と同様で、コンサルタントの仕事も人月商売の技術者も契約形態では大きく変わるところはない。しかし、コンサルタントが提供する付加価値は高い(はずだ)し、単価も人月商売の技術者と雲泥の差だ。当然、コンサルタントには人材としての才能や能力が要求され、その見返りとしての報酬は、やはり人月商売の技術者とは雲泥の差だ。
そんな訳なので、もし人財と称している企業の中で、その手の企業があって大変不快な思いをしたのなら、一応おわびを申し上げておこう。ただ、人財などと称するあなた方も悪い。とっとと人材に戻すことをお勧めする。ひょっとしたら人月商売のIT業界の中にも、「うちだって能力や才能ある人を大切にして、きちんと処遇している」というITベンダーがあるかもしれない。それだったら、人財なんて称するのをやめて……いや、単なる言葉の問題じゃないな。そもそもビジネスのやり方を改めるべきなのだ。
ここからようやく人月商売のIT業界に焦点を絞って書くが、この業界ほど、お金を生む材料、あるいは自社の財産として人をこき使う業界はない。人月商売で多重下請け構造のため、よく建設業界と比較されたりもするが、今どき「IT業界と建設業界はよく似ている」なんて言ったら、建設業界の人から「一緒にするな」と怒られてしまうほどの差がある。
関連記事 建設業の足元にも及ばない、IT業界は最も遅れた労働集約型産業だ特に、素人同然の人を「なんちゃってSE」に仕立て上げて、SES契約で客先に送り込む多くの下請けITベンダーの行状は目に余る。本来、SES契約も準委任契約と同類であり派遣ではないのだから、送り込んだ社員の労務管理は下請けITベンダーの責任だ。だが実態は放置状態で、客先の便利使いに任せる。このように(素人同然の)人財を「仕入れて」、客先に送り込めば、後は勝手に人月単価いくらで稼いでくれる。技術者はお金を生む自社の財産、まさに人財である。
もちろん、多少は財産としての価値を上げないと単価も上がらないので、下請けITベンダーも自社の技術者に基本的なプログラミング教育を施したりはする。だが、その程度の教育しか受けていない人であっても、業務経歴書など書類上では「Javaの使い手」や「経験豊富なデータベース技術者」に化ける。いわゆる経歴詐称だ。頭数がそろえばよいと考える客が気づかぬふりをするのをよいことに、そんな不正がまかり通る。人材としてその能力を伸ばそうとせず、お金を生む労働力としてしか技術者を見ていない証左ともいえる。
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