人が会社の財産なら損切りできる
ここまで、人材の材を材料だと思い込んでドヤ顔をしている恥ずかしさについて述べてきたが、人材を人財と言い換えることの欺瞞性についても触れておこう。冒頭で指摘した通り、人財という言葉を使いたがるのは、人月商売のITベンダーをはじめ、人しか「売り物」がない企業が多い。だから、冒頭の外資系ITベンダーのように、ついうっかり人財という言葉を使ってしまった企業は、即座に人材に戻すことをお勧めする。
では、なぜ後ろめたいのか。そりゃ当たり前だ。「人売り」と皮肉られる下請けITベンダーの経営者の中には、実際に人材を(もうけるための)材料ぐらいにしか思っていない連中がごろごろいる。そういえば派遣なら会計上、派遣する人は「商品」だし、給与は「仕入れ(売上原価)」となる。これは会計での仕分け上の都合だから、とやかく文句をつける話ではない。ところが、下請けITベンダーでは会計の範囲を逸脱して、派遣する人を集める際にも「人を仕入れる」と言ったりするケースがある。まさに材料扱いしているわけだ。
「おいおい、人を仕入れて、そのまま商品として売るんだろ。それじゃ、人を材料扱いしているとは言えないのでは」と細かい突っ込みを入れる読者もいるかと思うので、もう少しきちんと説明しておこう。確かに私も「人売り業」と言ったり「人しか売り物がない」などと書いたりしてはいるが、厳密に言うとこれは間違い。正確には「人の労働力を売っている」である。だから、人を(労働力という商品を生み出すための)材料扱いしているという表現は正しいのである。
で、人材から人財への言い換えである。人材の処遇に後ろめたいことがあるに違いないと書いたが、これも正しくないかもしれない。本当に後ろめたさを感じているのなら、まだよいほうだからだ。何せ下請けITベンダーには、平気で「人(技術者)が売れた」などと言う経営者がいくらでもいる。以前この極言暴論でネタとして使ったが、記者である私に向かって「技術者が3人まとめて70万円で売れたよ」などと言った経営者もいた。少なくともこの経営者には後ろめたさなどみじんもなかったな。
関連記事 木村の暴論に拍手喝采なら技術者は自ら動け、誰も助けてくれないぞだとすると、こうした企業が人財という言葉を使う理由は何か。2つ考えられる。1つは「社員を財産のように大切に思っている」とアピールすることで「人の仕入れ」、つまり求人の際に好印象を求職者に与えようという魂胆だ。もう1つは客に対するピーアール材料にしようとする思惑である。つまり「我が社は社員を大切にしていますので、誰もが皆やる気をもってお客さまのために働きますよ」というわけだ。
これはもう噴飯するしかない。人材を人財に言い換えて「社員を大切にする会社です」と言ったところで、誰も本気にはしない。人財などと称している企業はもうそろそろ、周りからいかに冷ややかに見られているか、そして当の社員がいかにしらけているかに気づいたほうがよいぞ。転職を検討している技術者の間では「人材を人財と書くような企業はうさんくさいので要警戒」などといった話までささやかれているくらいだ。
こんなふうに人材を人財に言い換えることの愚かさについて延々と書いてきたわけだが、実は少なくとも人月商売のITベンダーに関しては、人材を人財としたほうが実態に合うのではないかとひそかに思っている。何せ人財という以上、技術者らは企業にとっての財産、つまり企業が保有する資産だからな。財産(資産)である以上、損切りすることもあるし、毀損してもやむを得ないとする場合もあるしね。人月商売にとっての人財。ほら、これ以上的確な表現は他にないだろう。
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