DXを推進できるIT部門が多い業種とは

 さて、お待たせした。DXを推進できるIT部門についても言及する。先ほど「業種的に面白いほど偏りがある」と書いたが、本当にそうだ。それは小売業やサービス業で、特に大手小売業では、IT部門がDXを主導しているケースが多い。もちろん、これまでにないサービスを創出することを目的にデジタル推進組織を新たに設置した企業も多々あるが、その場合でも、IT部門は蚊帳の外という話をほとんど聞かない。IT部門もデジタル推進組織と役割分担してDXを推進しているパターンがほとんどだ。

 なぜかと言うと、日本企業の経営者が誰も彼も「DXだ! DXだ!」と騒ぐ前から、強い小売業は皆、ビジネス、つまり店舗の運営などにITをフル活用してきたからだ。以前からセブン‐イレブン・ジャパンやしまむら、ファーストリテイリング、良品計画、そして最近ブイブイ言わせているワークマンやカインズなど皆そうだ。サービス業も例を出しておけば、ヤマト運輸が昔からIT活用先進企業として名高い。

 で、こうした企業ではIT部門がビジネスのIT化、デジタル化の先頭に立ってきた。何せ小売業で基幹系システムと言えば、POS(販売時点情報管理)をはじめとする店舗向けのシステムや物流関連のシステムを指す。だからIT部門の仕事も現場のビジネス直結だったわけだ。しかも「ビフォアーDX」の時代にはシステム開発をITベンダーに丸投げしていた企業も、最近では悔い改めて内製化にかじを切り始めている。

 そういえば、こんな話を聞いたことがある。店舗に新たなデジタルサービスを導入する場合、ある大手チェーンではその宣伝のためのポップ(店舗に置く看板などの宣伝物)をつくるのはIT部門の仕事だそうだ。また、セブンイレブンとは別の大手コンビニエンスストアのCIOが話していたが、IT部員の中には顧客や店員のニーズが知りたくて、近くの店舗の店主に頼んで定期的にレジに立たせてもらっている人もいたという。

 かくのごとしで、製造業や金融機関などのIT部門も隠蔽体質、たこつぼ体質を悔い改めて、オープンマインドでデジタル推進組織などと協力して、DX推進の一翼を担うべきなのだ。だが、難しい。特にIT部員のマインドを変えるのが難しい。そのため、基幹系システムの刷新が喫緊の課題ではない企業は、とりあえずIT部門と基幹系システムをそのまま放置しておく。ただし、いつまでもというわけではない。表だって言うことはないが、IT部門の最終処分を検討し始めている企業は結構あるはずだ。

 「結構あるはず」と推定するのには根拠がある。既にIT部門を最終処分した企業があるからだ。最終処分の仕方には2パターンある。1つは、IT部門のマネジャークラスを中途採用の人材に置き換えていくというもの。製造業では社内の組み込みソフト部隊の技術者をIT部門に投入した企業もあったな。もう1つのパターンは、システム子会社を本当に処分してしまうというもの。例えばITベンダーに何らかの形で「持参金」を渡して引き取ってもらう。その場合、IT部門は中途採用などで強化し、基幹系システムの刷新に備える。

 という訳で、隠蔽体質、たこつぼ体質のIT部門には、DXの進展に合わせて同じような運命が待っていることだろう。思い当たるIT部門やIT部員は、本当に今のうちだぞ、一刻も早く悔い改めたほうがよい。まあ、おおらかに考えれば、IT部門がどうなろうと企業のDXが進展すればそれでよい。それにIT部門をつくり直すために新たな人材が必要になるから、人月商売のIT業界の技術者らには転職の機会が広がる。IT部門の最終処分という「犠牲」は決して無駄にはならないな。

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[日経クロステック 2021年11月8日掲載]情報は掲載時点のものです。

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