以前、この「極言暴論」などで大胆な予測をして赤っ恥をかいたことがある。何の話かと言うと、「SIerは5年で死滅する」という記事を書いたことだ。私がそれを最初に書いたのは2015年3月の記事。経緯を知らない読者なら、もうこれだけで「木村ってバカだな」と嘲笑するはずだ。この記事は「記者の眼」として掲載したが、その後は極言暴論に舞台を移して何度か言及した。いわゆる恥の上塗りである。

 何でそんな話を始めたのか不審に思う読者もいることだろう。そりゃそうだ。今やSIer、そして下請けITベンダーなど人月商売のIT業界は、我が世の春が続いている。そんな状況のなかで、「かつて『2020年ごろにはSIerが死滅する』などと書いた」と告白するのは、全くもってアホウである。こういうときには、おとなしくしているに限る。では、なぜ言い出したかというと、改めて言うべき「時」が訪れたからだ。

 あっ、断っておくが、ざんげしようというわけではないからな。この「SIerは死滅する」、あるいはもっと汎用化して「人月商売のIT業界は死滅する」との認識は、今でも全く間違ってはいないと確信している。問題は死滅までの時期をあまりにも短期間に見積もりすぎた点にある。2020年という、とんでもない「期限」を設けたのは、ユーザー企業の経営者がもう少し利口だと買いかぶっていたからだ。

 「SIer死滅論」を書き並べた一連の記事は、この極言暴論の記事の末尾にリンクを付しておくので、興味があるなら読んでいただきたい。ここでは簡潔に記しておくが、経営者を買いかぶっていたという理由は次の通りだ。2015年当時、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を使うかどうかは別にして、既にデジタル技術(=IT技術)を活用してビジネス構造の変革に取り組まなければならないという機運が高まっていた。IT投資の話に限定して言えば、いわゆる「守りのIT」オンリーから「攻めのIT」への転換だ。

 具体的には、利用部門の要求を聞き入れ続けてぐちゃぐちゃになった基幹系システムを業務変革の一環として刷新して、アドオンを極力廃したERP(統合基幹業務システム)パッケージソフトやクラウドベースのシステムに置き換える。それと併せて、顧客向けに新たなデジタルサービスを順次立ち上げていく。その前提として、デジタルサービスなどのシステムを内製できる体制を確立するために、手を動かせる技術者の中途採用を進める。話を丸めて言えばDXの推進だ。これを2015年から5年ほどで、多くの企業がやり遂げると考えていたわけだ。

 そうなれば、SIerをはじめとする人月商売のITベンダーのビジネスは干上がっていく。これが「SIerは5年で死滅する」のシナリオだ。同じような危機感を表明するSIerの経営者がいたとはいえ、5年で死滅すると想定したとは、いやはや何とも「おめでたい」シナリオである。ちなみに私から言わせれば、SIerなど人月商売のITベンダーの一刻も早い死滅は「善」なのだが、5年で死滅はあまりに希望的観測だったわけだ。だが、時は来たりぬ、である。まさに潮目が大きく変わろうとしている。

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