外部招へいのCIOは「いずれいなくなる人」
せっかくIT部門で出世の階段を上る努力をしているIT部員を差し置いて、日本企業がCIOを招へいする理由は、DX(デジタルトランスフォーメーション)などの変革を主導する役割をIT部門のプロパー人材は担えないと考えるからだ。ここまで読んできた読者なら、この点は疑問の余地がないであろう。とにかく、野心がなく保身願望だけの「草食系」CIOはDXなどでは使い物にならないわけだ。日経コンピュータに登場するCIOに外部招へい組が大半を占めるのも、変革に取り組む企業などのCIOが取材対象になることが多いからだ。
DXに目覚めた企業は、CIOだけでなく優秀な技術者の中途採用を推し進めている。最近はデジタルサービスの創出などをミッションとするCDO(最高デジタル責任者)を外部招へいし、中途採用した技術者らから成るデジタル推進組織を率いてもらうだけでなく、IT部門の面倒を見てもらうケースも増えている。当然、CIOやCDO、そしてデジタル推進組織のメンバーとして中途採用された技術者は「肉食系」だ。米国企業のCIOらと同様、実績を上げてキャリアアップを図ろうという野心に満ち満ちている。
さて、これで米国企業と同じように、新しいデジタルサービスの構築や最新技術の導入、あるいはシステム刷新に伴う抜本的な業務改革といったリスクある試みにチャレンジできる……といえば、そうは問屋が卸さない。転職が当たり前となり、外部招へいされた経営幹部や中途採用の社員が増えたからといって、特に大企業なら大半の社員が新卒採用の終身雇用組だ。5~10年もすればCEOから平社員まで全ての人が入れ替わる米国企業とは、根本的に異なる。
米国企業にも当然、「新しいことなんて真っ平、今までのやり方の何が悪い」と文句を言う社員は大勢いる。いわゆる抵抗勢力で、彼ら彼女らの激しい抵抗でDXが頓挫するといった事態もあり得るだろう。だが、そんな抵抗勢力も次の転職を考えておかなければならないので、自身のキャリアにメリットがあることを理解させれば、推進派に転じる公算が大きい。頑強な抵抗勢力もいつまでもその企業にとどまることを考えていないので、主張が通らないとなると見切りをつけて去っていく。それに解雇も容易だしな。
それに対して日本企業は、転職組が多少増えたとしても圧倒的多数派は終身雇用組。外の世界を知らない「ムラ社会」の住人だ。以前、この「極言暴論」で指摘したが、外部からやって来たCIOらはいくら経営者によって招へいされたとしても、このムラ社会にやって来た「よそ者」の扱いを受ける。ムラ社会の住人、つまり終身雇用組の社員から「どうせ2~3年もすれば去っていく人たちだから」と正しく認識されてしまっており、いくら優秀な人材であっても、DXなどでムラ社会からの協力を得られないという事態になりかねないのだ。
関連記事 DX請負人のCIOが2年で逃げ出す、日本企業をむしばむ恐るべき「ムラ社会のおきて」よそ者であるCIOや技術者たちはもちろん愚か者ではない。経営者が「我が社も改革に取り組め」と言うだけで、DXなどの推進を自分たちに丸投げしているようでは、大きな成果が上げられないなと容易に察する。「実績を上げて、それを元手に次に行こう」と考えているわけなので、これは由々しき事態だ。手っ取り早く取り組めるPoC(概念実証)などを実施してメディアに取り上げてもらったり、国の「DX認定」を受けたりして「実績」を形にする。で、それを元手に次を目指すことだろう。
もちろん、そんなトホホな話ばかりではない。中には、業務改革を伴う基幹系システムの刷新やデジタルサービスの創出などで本物の実績を上げる人もいて、私も何人か知っている。彼ら彼女らは「何でそこまで苦労して、ムラ社会の住民たちを説き伏せるのか」とあきれてしまうほど、DX推進などに情熱をもって取り組み、成果を出している。いわば日本企業というムラ社会における革命だ。ところがである。先ほど書いたように、まもなく反革命が起こり、DXなどの成果が霧散したりするのだ。
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