2025年度末が期限では絶対に不可能だ

 念のために書いておくと、私は何も「標準仕様書を全面的につくり直せ」と言っているわけではないからな。ベストプラクティスを見つけて標準化しないといけないのは、むしろ「追加要件」のほうだ。現行の標準仕様書だけではシステムを実装できそうにないこともあり、各自治体で追加要件が発生する。で、その追加要件がこのままでは、標準準拠システムを各自治体の業務のやり方に合わせるためのものになってしまう。だから、最も効率的に現場の業務が回るように、ベストプラクティスを見つけ出し要件に組み込む必要がある。

 さらに念のために言っておかないといけないことがある。「問題点が見えているのに、スケジュールありきで突っ走る」などと書いてきたが、プロジェクト関係者の周りには「何が問題なの?」という人も存在する。で、そんな人が首長や政治家などのキーパーソンだったりするとたちが悪いので、言っておかねばならない。この手の人たちは「ITインフラやデータが標準化されてデータ連係などが容易になればオッケーではないのか」とか「ベンダーロックインが解消されてITコストが安くなるでしょ」などとのんきに考えている。

 だが、そんなことはあり得ないからな。確かにデータ連係は容易になるだろう。その結果、新型コロナウイルス禍の経済対策を打ち出したときのように、国と自治体でシステム連係ができずに赤っ恥をかくといった事態は避けられるかもしれない。だが、もう1つの重要な目的であるITコストの削減は、ベンダーロックインが解消されないから絶対に不可能だ。たかだかデータ連係を容易にするだけのことに、膨大な税金を投じることになってしまうぞ。当然、ITコストは減るどころか、その分だけ増えることになってしまう。

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 なぜそんなことになるか。各自治体の業務のやり方や業務プロセスを熟知するのは、既存システムの保守運用などを請け負うITベンダーの担当技術者だけだからだ。各自治体のIT部門の大半は「丸投げ窓口」にすぎないから、当然何も分からない。こんな状態では、他のITベンダーは入札になんか参加しないぞ。標準準拠システムを既存の業務のやり方などに合わせる方向になるわけだから、それを知らない他のITベンダーにはリスクが高すぎるからだ。政治絡みとかで入札して受注してしまえば、それこそ大炎上必至となる。

 そんな訳なので、標準準拠システムの開発に着手する前に、自治体の各業務のベストプラクティスを見つけ出す作業がどうしても必要になる。各自治体の業務のやり方を比較して最も効率的なやり方を見いだすわけだから、それなりの時間と人的リソースが必要になる。全自治体の業務を比較するのは不可能だから、特定の地域に絞って実施するか、「どこよりも業務を効率的に処理している」と自負する自治体に手を挙げさせて、そうした「先進自治体」同士で比較したりするのが現実的だろう。

 そのうえで、現行の標準仕様書に加えて、標準の追加仕様書を作成する。もちろん政令指定都市と小規模な町村で同じ業務のやり方は非現実だから、松竹梅といった形で自治体規模に応じた複数の追加仕様書が必要になる。ここまで用意すれば標準準拠システムの構築は容易だ。多くのITベンダーが参入できて、ベンダーロックインも解消される。逆に大変なのは、従来の業務のやり方をシステムに合わせることだ。当然、自治体職員に業務改革を強いるので、首長らの強いリーダーシップも不可欠になる。

 うーん、「私は記者だから解決策なんて出さないよ」と書いておきながら、解決策を一生懸命に説いているような気がしてきたな。でも、さらにもう1つだけ重要なことを書いておく。これだけのことをするには、期限が2025年度末では絶対に不可能だ。だから、まずは期限を延ばせ。期限を変えずに、問題点を見ないように、深く考えないようにしてプロジェクトを進行させるなら、大失敗して膨大な税金の無駄遣いに終わるしかない。できないならば自治体システム標準化なんか即刻やめちまえ。プロジェクト中止は少なくとも最悪の結末ではないぞ。

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発 行:日経BP

[日経クロステック 2022年10月3日掲載]情報は掲載時点のものです。

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