落ちぶれたIT部門も技術者をおとしめた

 ここまで人月商売のIT業界、特にSIerがいかに技術者の仕事をおとしめて、安く使ってきたかについて書いてきたが、それ以上に技術者の仕事をおとしめてきた人たちがいる。極言暴論の読者ならピンときた人も多いことだろう。そう、客のIT部門である。そうなった責任の大半は経営者にあるので、こんな言い方をすると酷だが、多くのIT部門は劣化・素人化して、まず自らの仕事を価値の乏しいものにしてしまった。

 昔、まだ多くの企業でIT部門がまともであった頃、IT部門は社内唯一の「技術系間接部門」としてそれなりの地位を保っていた。システムを真っ先に導入した大企業では、IT部員は当然プログラミングもこなす技術者であり、要件定義も設計もプロジェクトマネジメントも担っていた。いわば「スーパー何でも屋」のプログラマー兼SE兼プロマネだったわけだ。ところがその後、IT部門がリストラのターゲットとなったこともあり、多くの企業でIT部門は素人集団に落ちぶれた。

 もうこうなってしまうと、社内では何となく技術者と思われていても、IT部員は単なる「IT担当者」である。もう少し言えば、ITベンダーへの丸投げ窓口の担当者だ。こうしたIT担当者は社内でのIT部門や自らの評価が低いことに不満のようだが、それでも給与はその企業の水準に準拠する。なので、常駐するITベンダーの技術者よりはるかに高給取りなんてことはざらにある。で、高給取りのIT担当者は、技術者の仕事の価値を全く理解せず、ITベンダーをただ業者扱いして無理難題を押し付けるばかりである。

 かくのごとしで、客のIT部門、そしてSIerを頂点とした人月商売のIT業界においては、技術者の仕事がひたすらおとしめられ続けてきた。技術者の職は分業化して、どの企業に属するかによって固定されるようなった。一種の「身分制」である。しかも、客のIT担当者(丸投げ窓口担当者)と、いわゆる人売りITベンダーのコーダーは誰でもできる仕事だ。そうした価値のほぼ皆無に等しい仕事とごちゃ混ぜにされていることもあり、本物のプログラマーやSE、プロマネの仕事の価値までがおとしめられてきたわけだ。

 ところが最近、状況が変わりつつあるよね。多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むようになり、デジタル人材が争奪戦になった結果、トラディショナルな企業でもプログラマーらを正当に評価するようになってきた。SEもプログラムが書けるなら努力次第でアーキテクトへの道も開けつつある。プロマネの場合、3000万円プレーヤーは難しくとも、プロジェクトを仕切れる人材として企業で設置が相次いでいるデジタル推進組織の幹部に登用されるケースも出てきている。

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 誤解する人はいないと思うが、念のために言っておくと、そうした「再評価」はIT部門やIT業界の人月商売の外側で起こっている。大手SIerの中には、旧来のIT人材ではなくデジタル人材と世間から見なされるプログラマーらを育成する動きもあるが、それは人月商売の外側で起こっているデジタル化の動向に、何とか食らいつこうとする試みである。その意味では、ユーザー企業がIT部門とは別にデジタル推進組織をつくり、デジタル人材を集めていることと本質的に変わりはない。

 そんな訳なので、いまだにIT部門や人月商売の世界でくすぶっている技術者は、可及的速やかに脱出したほうがよいぞ。最近では「攻めのデジタル人材」と「守りのIT人材」といった具合に色分けする風潮があり、守りのIT人材、つまり既存のSEやプログラマーらの仕事はますます過小評価される傾向にある。即刻脱出せよ。えっ、「基幹系システムなどを守る我々がいなくなっては大変じゃないか」だって? その通り。だが、それを評価しない連中のために働く必要はない。後は野となれ山となれだ。

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著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2022年9月26日掲載]情報は掲載時点のものです。

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