プログラマーの価値をおとしめた元凶

 ここで多少、SIerの「名誉回復」を図ってあげよう。ピンハネの件だが、中抜き業者だけでなく、3次請けから先、4次請け、5次請けとしてSES(システム・エンジニアリング・サービス)契約で連なる、いわゆる人売りITベンダーの世界ではピンハネが横行している。だから人月商売のIT業界の多重下請け構造を、多重ピンハネ構造と言ってしまって何の問題もない。だがSIerの場合、多少事情が違ってくる。

 先ほど書いたように客の危ない度合い、そして技術的な難度など勘案して料金を上乗せする。プロジェクト炎上による損失などのリスク分を料金に積むのはビジネスの常識だ。だけど、こうした料金の上乗せ分などを明朗会計にしないで、人月料金に含めてしまう。下請けITベンダーの技術者らはそんな事情を想定しないから、SIerは客から受注した料金に比べて大幅に安い料金で下請けITベンダーに再委託していると思ってしまう。つまり、SIerのピンハネがひどいとの誤解が生じる。

 さて、SIerの名誉回復はここまでだ。逆に考えると、SIerは下請けITベンダーに安く再委託することで、プロジェクトのリスクなどに備え、かつ利益を確保するための「原資」を確保しているわけだ。実際に手を動かす技術者、つまりプログラマーの価値を低く抑え込んでいるわけで、その抑え込んだ分が「原資」となるピンハネ分と言ってよい。「それは言いがかりだ」というSIerの関係者がいたら、考えてみるとよい。なぜSIerは長きにわたって、客のシステムを開発するプログラマー部隊を自社で抱えることを避けてきたのか。

 理由は簡単だ。2つある。1つは、自社で抱え込むほどプログラマーに価値を見いださず、できるだけ安くあげようとしたからだ。要するに「我が社の給与水準に見合わない仕事」と考えていたのだ。SIerは「付加価値の高い」プロマネやSEの仕事に特化し、「付加価値の低い」プログラマーの仕事は下請けに出して利益をかさ上げしてきたというわけだ。そういえば1990年代には、新人にプログラミングを教えないで、いきなりSEやプロマネに仕立て上げようとした、愚かなSIerがあったほどだ。

 もう1つの理由は、好不況に合わせて需要が大きく変動するリスクを回避するためだ。人月商売である以上、需要が減れば技術者の必要人数も減るから、技術者を大勢抱え込んでいては不況のたびにリストラに乗り出すしかなくなる。ホワイト企業を自認するSIerはそうした事態に追い込まれることを避けるために、需要変動リスクを下請けITベンダーに押し付けてきたわけだ。こうしたことにより、人月商売におけるプログラマーの仕事は不当におとしめられて、高収入が望めない不安定な仕事として固定されてしまった。

 「不当におとしめられて」と書いたが、実際にプログラミングを付加価値の低い作業にする「努力」もなされた。悪名高い「ソフトウエア工場」の試みである。ソフトウエアの受託開発を一品ものの機器製造になぞらえてエンジニアリングする。要するに、複雑なソフトウエア開発を分解して単純な作業の組み合わせに変える。本物の工場なら正しい取り組みだが、ソフトウエアにも適用すべきだと勘違いしたのが悲劇の始まりだった。おかげでプログラミングは、素人同然の人でもできるコーディング作業と誤認されるに至った。

 もちろん、これでは単なるコーダー(コーディング作業員)であり、プログラマーとは言えない。一方で、いくら単純な作業に分解されたとしても、プログラミングスキルとノウハウが必要なプログラマーの仕事は残る。だが、それらは十把一からげされて、プログラミングは付加価値が低いと見なされてしまった。そうなると給与は安くてよく、必要がなくなればお払い箱にしてもよいし、必要になれば求職中の人をかき集めればよいという話になる。SIerに「私たちが下請け技術者の仕事をつくってやっている」とうそぶく連中が出てくるのも当然である。

次ページ SIerのプロマネやSEは「本物のプロ」か