経営とITが何の関係もない不都合な真実

 今回のビッグモーター事件で明らかになってしまったのは、SOMPOホールディングスや損保ジャパンは「DX先進企業」「データ活用先進企業」のはずなのに、肝心の経営判断においてITは何の関係もないということだ。さらに言えば、DXの「魂」はデジタルではなくトランスフォーメーション、つまり変革のほうである。デジタルは変革のための手段という位置付けだ。だが、損保ジャパンの経営者らは、既存のビジネスをより良いものに変革するどころか、現状を守ることだけを考えていたようだ。

 ビッグモーターは事故車を故意に傷つけるなどして自動車保険の保険金を水増し請求していた。誰もが感じる疑問は、損保ジャパンをはじめ損害保険会社はなぜ長きにわたって、そうした不正を見抜けなかったのかである。不正が常態化しているのであれば、請求額が他社に比べて割高になっていたわけだから、そうした不自然さを検知するシステムがあれば容易に不正の可能性をあぶり出せたはずだ。だが、白川社長は記者会見で「(ITシステムによる)不正を検知する仕組みやアラートを上げる仕組みは実装していなかった」と述べている。

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 経営主導でDXを推進しているはずなのだから「何でやねん」とツッコミを入れたくなるが、検知システムを導入していたところで、恐らく何の意味もなかっただろうね。何せ不正疑惑が濃厚になった2022年6月以降も、損保ジャパンだけはビッグモーターへの事故車の紹介業務をやめなかったのだから。報道によると、損保ジャパンと東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の損保大手3社は不正疑惑を受け、関東にある4工場の修理案件36件のサンプル調査をビッグモーターに求めたところ、全案件で不適切な請求があったと明らかになったという。

 で、損保大手3社はビッグモーターへの事故車の紹介を停止したが、損保ジャパンだけはすぐに事故車の紹介業務を再開している。散々報道されているのが、そうした経営判断を下した際の経営会議における白川社長の発言だ。「事実関係としては『クロ』が推測される」と言っていたのに、紹介業務の再開を主張したというのだから驚きだ。ビッグモーターは損保ジャパンにとって有力な保険代理店であり、関係維持のために取引を再開したという。これじゃ、どんなに上等な検知システムがあったところで全く無意味だよね。

 改めて書いておくが、DXの「魂」はトランスフォーメーションだ。つまり、DXの目的はあくまでも変革だ。ビジネスの在り方を変え、組織や仕組みを変え、経営の意思決定のやり方を変え、企業文化を変える。で、今はデジタル革命の時代なので、そうした「ビジネストランスフォーメーション」のための強力な手段というか、基盤となるのがデジタル技術となる。だからビジネストランスフォーメーションはDX、デジタルトランスフォーメーションと呼ばれるのだ。

 そんな訳なので、損保ジャパンに対してきつめに言うと、そもそもDXを語る資格がなかったということになる。何せ自動車保険という基幹のビジネスの在り方を変えていこうという経営の意思が丸っきりなかったわけだからな。それどころか、大手保険代理店でもあるビッグモーターとの関係悪化を恐れ、不正疑惑が浮上しても同社との「腐れ縁」を維持しようとして、「顧客のために正しく商売する」というビジネスの基本中の基本まで経営者自らがゆがめてしまった。

 大手損保にとって保険代理店という販売チャネルがビジネスの生命線であるという事情は分かる。扱いはまだ小さくとも既に日本でネット損保というライバルが出現し、世界を見ればネット損保が伸びているという趨勢を読めば、従来の販売チャネルを見直していくのも本来ならDXの大きなテーマのはずだ。それなのに「DX先進企業」が逆に、不正にまみれた大手代理店との関係維持を最優先するとはあきれた話だ。「中長期で見れば保険業は構造不況」として「脱保険」を目指してグループを挙げてDXを推進しているはずなのに、これは一体どういうことかと思ってしまうぞ。

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