こういう事件があると本当にがっくりきてしまうんだよね。何の話かというと、ビッグモーターの保険金不正請求に絡み、その疑惑を認識していながら同社への事故車の紹介業務を続けた損害保険ジャパンの社長が、引責辞任に追い込まれた件だ。「えっ、それってITに何の関係もないじゃん」と不審がる読者もいると思うが、まさに「何の関係もない」のが大問題なのだ。何せ損保ジャパンは、日経コンピュータが主催して優れたIT事例を表彰する「IT Japan Award 2022」でグランプリを受賞しているからな。

 正確に言うと、グランプリを受賞したのは持ち株会社のSOMPOホールディングスであり、損保ジャパンはその中核事業会社だ。IT Japan Awardのほうはというと、日経コンピュータや日経クロステックに掲載された事例の中から毎年、特に優れた取り組みを表彰するもので、2023年で17回目となる。実は私も審査委員や事務方として長く関わったので、それなりに思い入れがある。

 SOMPOホールディングスが受賞したのは、「脱保険」を目指し、グループを挙げてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していたからだ。スタートアップとの連携・協業、100億円出資のデジタル事業子会社の新設、損保ジャパンによる34年ぶりの基幹系システムの全面刷新などを矢継ぎ早に展開し、生損保や介護の現場で生まれるデータを集約・分析するIT基盤の整備も進めていた。

 2022年時点で既に私はIT Japan Awardの審査とは関わっていなかったが、はたから見てもSOMPOホールディングスのグランプリ受賞は文句なしだと思っていた。受賞対象となった日経コンピュータ2021年7月22日号の特集記事では、ビッグモーター事件で今や「時の人」になってしまったSOMPOホールディングスの桜田謙悟社長(当時、現会長)兼グループ最高経営責任者(CEO)がインタビューで登場し、グループ挙げてのDXについて熱く語っていた。

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 その中に次のようなコメントがある。「中長期で見れば保険業は構造不況。自動車保険の市場は小さくなる」「デジタルの世界で競争するとき、テクノロジーは1社が占有しにくいのでデータを持っているほうが強い」「当社はデータの宝庫。我々はリアルデータのプラットフォーマーになりたい」――。要するに、保険業として蓄積している膨大なデータなどをフル活用できるITインフラを整え、異業種企業とも連携しながら、データを武器にヘルスケアなどの新しいビジネスを創出していく、ということだろう。

 まだこの特集記事を読んでいない読者は、ぜひ一読してほしい。経営トップが主導するDXのお手本として教科書に載せてもよいぐらいの事例だ。読んでみれば誰もが私と同じ感想を持つと思うぞ。そういえば、社長辞任を表明した損保ジャパンの白川儀一氏は37人の役員を抜いて51歳の若さで社長に就任している。デジタルを活用するかどうかを問わず、グループ全体でビジネスのトランスフォーメーションを推進していこうという機運が見て取れた。なのに、ビッグモーター事件によって「化けの皮」が剥がれてしまった。

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