終身雇用が前提ではDXなんてできない

 さて、社員を容易に解雇できないことから生じる弊害を書いてきたが、それでもたかがITに絡む弊害だ。基幹系システムの刷新がまともにできないとか、IT部門が少人数でシステムの内製もできないとかいったことを理由に「解雇を容易にせよ」と言い出すのは、暴論にもならない愚かな主張でしかない。ただねぇ、最近はどんどん状況が変わってきているぞ。かつての産業革命に匹敵するデジタル革命の進展で、ビジネス全体のデジタル化(=IT化)も進んでいる。だから「たかがITに絡む弊害」と言っていられなくなってきたのだ。

 「このままじゃデジタル革命に乗り遅れる」。そんな危機感があるからこそ、トラディショナルな日本企業もDXに取り組んでいるわけでしょ。トランスフォーメーション(変革)の目指すところは、デジタルネーティブなテック企業と同じ土俵で戦えるようになることだ。いきなりテック企業並みの「爆速」は無理だとしても、かなりのスピード感を持って、ビジネスを変革したり組み替えたりしていかなければならない。終身雇用制度を維持したままで、そんな芸当ができるとはとても思えない。

 そういえば、これまでユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)ともてはやされた米国のスタートアップなどで、数百人単位、場合によっては1000人以上の解雇が相次いでいる。景気の減速感が強まり、資金調達も難しくなってきたからだが、こうした動きを見て、読者はどう思うだろうか。まさか「ほら、言わんこっちゃない。ユニコーンか何だか知らないが、調子に乗り過ぎたからこんなことになるんだ」などと、上から目線の感想を述べたりはしないよね。

 むしろ話は逆だ。事業が厳しくなると「血も涙もなく」大がかりなリストラに踏み切れる。そんな経営の自由度があるからこそ、市場の総取りを狙ってビジネスを一気にスケールさせることが可能になるわけだ。もちろん、大きなリスクを取ってくれる投資家の存在が前提だが、事業を縮小する際に容易には人を解雇できないのなら、経営者も投資家もビジネスを一気にスケールさせるという意思決定などできるはずがない。

 実は少し前に、トラディショナルな日本企業でこんな話を聞いた。PoC(概念実証)の結果、ビジネスとしてものになりそうな場合でも、投資判断は「着実に」となってしまうそうだ。投資額の問題ではない。米国のスタートアップの投資額に比べれば、いくら思い切ったところで比ぶべくもない。問題は、そんな額の投資でさえなかなか踏み切れないことだ。お金の問題ではなくて、人の確保がビジネスのスケールにとってネックになってしまうのだ。

 要するに、終身雇用を前提にリスクの大きい新規ビジネスの人員確保を考えるから、ビジネスのスケール感がちまちましたものになる。まずは社内の余剰人員の中から人を集めて……、なんて話になる。話を聞かせてくれた人は「本来なら技術者やマーケターらを中途採用してもらいたいところだが」と嘆いていた。そして出てきた言葉が、「結局のところ、日本は米国と違って簡単には社員を解雇できないでしょ。だから無理なんですよね」だった。

 もちろん問題はそれだけではない。DXなんだから、既存のビジネスもデジタル技術(=IT)を活用して変革していかなければならない。場合によっては事業部門を丸ごとお払い箱にせざるを得ない場合もあるだろうし、個々の社員のアナログベースの仕事が無用になるケースも多数あるはずだ。そんなとき企業はどうするのか。必ずしもDXの話ではないが、まもなく電気自動車、自動運転車の時代が始まる。既存の自動車産業では多くの仕事が失われるが、自動車メーカーなどは素早く適切に対応できるのだろうか。

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