システム刷新を「人減らし」の道具として使えない
米国企業の場合、例えばERP(統合基幹業務システム)導入の主たる目的は一般管理費、つまり間接業務のコスト削減。要するに人減らしだ。「ERP導入による業務改革」などと日本風のまどろっこしい言い方はほとんど聞いたことがない。とにかく可能な限りERPに自社の業務を合わせることで、間接部門を中心に業務の合理化・効率化を図る。その結果、間接部門の相当数の人員が不要になるので、大がかりな人員削減に踏み切る。こうして間接部門の人件費、つまり一般管理費の大幅削減を実現するわけだ。
だからERP導入などのシステム刷新においては、必ず「ERP導入で削減できる一般管理費 > ERP導入に伴って増加するITコスト」が成り立っていないといけない。そういえば、ある大企業でERP導入プロジェクトが完遂した際のエピソードを聞いたことがある。完遂の報告に来たCIOに対し、CEO(最高経営責任者)が次のように言ったという。「よくやった。次はIT部門の番だな」。つまりIT部門も大幅な人員削減を実施せよという指示だ。何せIT部門も間接部門。IT部員の人件費なども一般管理費であることに変わりはない。
ERP導入のメリットとして、いわゆる「業務の見える化」が言いはやされている。ただ米国企業などの場合、主たる目的はあくまでも一般管理費の削減。業務の見える化はもちろん重要だが、いわば「副産物」だ。一方、日本企業の場合、ERP導入による人減らしなんてできないので、業務の見える化などの副産物をメインに据えるしかない。さらにERPによる業務改革と叫んだところで、何のための業務改革なのかを曖昧にせざるを得ないわけだ。
もちろん、そんなことでは業務改革も業務の見える化も不可能だ。誰かの仕事をなくしてしまうわけではないから、利用部門やエンドユーザーの要求は最大限尊重される。現行システムの機能や業務プロセスを可能な限り受け継ぐために、ERPを導入しても新システムはアドオンだらけとなる。業務改革は名ばかりとなり、単なるシステムの入れ替えで終わる。もちろん、部分最適の業務に合わせたアドオンの乱造によって、業務の見える化も夢のまた夢となる。
社員を解雇できないため、基幹系刷新、ERPの導入のような大規模プロジェクトの体制もおかしなことになる。プロジェクトに合わせて技術者を社員として抱え込めば、システムが出来上がり保守運用フェーズになると大量の余剰人員が発生する。だからIT部門によるシステムの内製は事実上不可能。なので、IT部門は発注窓口として最低限の人員しかおらず、実際にシステム開発はSIerなどに丸投げすることになるわけだ。
これまで日本企業の経営者の「ITオンチ」ぶりはひどいものだったが、こう考えるとある程度合点がいく。人減らしを封印されコスト削減という明確な効果が見えず、他の効果もモワッとした状態なら、ITに関心が持てなくても仕方がないかもしれないよね。話は脱線するが、最近逆のパターンがあった。具体的なコスト削減効果が見えると、日本企業の経営者も思いの外頑張るということが分かったのだ。何の話かというと、新型コロナウイルス禍対策として多くの企業が導入したテレワークだ。
皆がオフィスという1つの場所で集まって、空気を読みながら仕事をするのをよしとしたトラディショナルな日本企業にもかかわらず、新型コロナ禍収束後もテレワークを基本的な働き方にすると宣言する経営者が相次いでいる。皆で居残る「ダラダラ残業」がなくなって残業費は減るし、通勤費も削減できた。オフィススペースを縮小して賃貸料を大幅に削り込むことも可能になった。こうした強いインセンティブがあったがために、テレワークの継続を多くの経営者が決めたわけだ。
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