「世界最高水準」と自賛する電子政府ができても……

 さて、ここまで書いてこなかったが、フロントエンドつまり国民とのインターフェースとなる「電子政府」や「デジタル・ガバメント」と呼ばれるシステムやアプリのほうはどうか。「行政におけるデジタル分野(システム関連)の変革」という矮小化されたDXを担うデジタル庁にとっては、ここが主戦場である。マイナンバーカードとの組み合わせで、国民がワンストップで行政手続きなどを行えるし、必要な行政サービスも迅速に受けられる。そんな電子政府がゴールだろう。

 新型コロナウイルス禍の各種対策のためにつくったシステムは軒並み駄目だったが、デジタル庁がつくるシステムは少しはまともになるはずだ。なぜなら、コロナ禍対策のシステムは有事のシステムであり、これからつくるのはアフターコロナの平時のシステムだからだ。そもそも行政関連で有事のシステム構築はうまくいかない。急ぎ構築するのでバグが多いといった理由だけではない。コロナ禍などの有事では各省庁や各自治体の枠を超えた連携が必要になるにもかかわらず、縦割りでシステムをつくってしまうからだ。

 2021年8月下旬に、自宅療養中のコロナ感染者が保健所から認識されずに亡くなるという「事件」があった。一義的には保健所のミスだが、行政の縦割りを前提にしたシステムが招いた悲劇だ。亡くなったこの方は厚生労働省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」に症状の悪化を訴える内容を入力していた。厚労働はHER-SYSについて「急変時に気づいてもらえないことがなくなり、きめ細かな安否確認を受けられるようになる」などとうたうが、紙で情報を管理していた保健所は気づかなかった。

 一方、デジタル庁がつくる電子政府のシステムは、行政の縦割りを前提にしても問題が露見する可能性は低い。各省庁や各自治体のシステムがデータ連係できるようになれば、電子政府で受け付けた手続き申請を担当組織のシステムに送る仕組みなどを構築すればよい。「データを送ったので、後はそちらで処理をよろしく」というわけだ。もちろん担当する自治体などでは、対応する機能や業務フローを新たにつくらなければならないかもしれないが、何せ有事のシステムではないから対応を検討する時間はある。

 かくして、省庁や自治体などの行政の縦割り構造や、それぞれの組織の業務のやり方に手を加えることなく、バックヤードの基幹システムの刷新などを担当するITベンダーを肥え太らせながら、「世界最高水準」と自賛するデジタル・ガバメントが出来上がるだろう。もちろん、各組織の非効率な業務はそのまま、頑強な組織の壁もそのままである。アフターコロナの平時が続けばよいが、再びコロナ禍級の災難に見舞われたとき、果たして変革なき縦割り行政のデジタル・ガバメントは適切な有事対応が可能になるのだろうか。

 そもそも官庁や自治体の縦割り行政は大きな問題だ。特に複数の組織をまたぐ課題に対しては、権限争いや消極的権限争い(責任の押し付け合い)を繰り広げ、調整に時間がかかるうえに、思わぬ機能不全を引き起こす。だからこそ菅首相が「行政の縦割り打破」を唱えてきたわけだし、行政のDXの目標はそれでなければならないはずだ。つまりデジタルを活用し、官庁や自治体の壁を越えて政策や実務面で連携できる体制をつくるということだ。

 というわけで「行政のDXは無理」との結論になる。ただ、これで終わるのは極言暴論といえども、あまりに無責任なので最後に提言をしておこう。まず行政のDXと行政改革という2つの概念を統一する。そのうえで、発足したばかりなのに恐縮だが、デジタル庁を改組して「デジタル行政改革庁」をつくる。「このままじゃ、まずいんじゃないか」と憂う、志のある官僚らも一本釣りで集める。で、「システムに業務を合わせろ」とか「組織の壁を越えて必要な体制をつくれ」といった強い勧告権を与える。

 もちろん、デジタル革命の世にふさわしい行政の在り方を検討し、首相に提言する機能もデジタル行政改革庁のミッションとすればよい。これでどうだ。もちろん、新たな首相の強いリーダーシップが大前提ではあるが。

『アカン! DX』

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著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2021年9月13日掲載]情報は掲載時点のものです。

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