デジタル庁はIT絡みの勧告権しかない

 「行政におけるシステム関連の変革」にすぎないにもかかわらず、デジタル庁が主導して行政のDXを推進するという。とても奇妙なロジックだが、恐らく次のようなストーリーだろう。政府機関や自治体のシステム(特に基幹システム)の標準化や再構築を通じて、役所の業務の変革につなげる。つまり、システムを業務に合わせるのではなく、システムに業務を合わせるというやつだ。

 読者の中には「あぁ、駄目だ、こりゃ」と思った人が大勢いるはずだ。その通り。駄目だ、こりゃ、である。これはまさに民間の企業におけるしかばね累々の取り組みと同じだ。先ほども述べたERP導入による業務改革とか、システム刷新に伴うBPRの類いだ。IT部門が主導して「全社的に業務を抜本的に変革する」と大風呂敷を広げたものの、利用部門から「ふざけんな。それじゃ業務が回らないじゃないか」とねじ込まれて頓挫、という例のパターンである。

 で、どうなったかというと、例えばERP導入による業務改革の場合、アドオンの山をつくることになる。旧来の基幹システムの機能のうち「これがないと業務が回らない」との利用部門のごり押しに負けてアドオンをつくっているうちに、何のことはない、旧システムとほとんど変わらないシステム(ERP+アドオン)が出来上がり、業務改革って何だっけ、という状態になる。もちろん多少の「改革」はやるが、それをもって「改革は成功した」とIT部門や利用部門、そしてITベンダーは口裏を合わせる。

 もちろん最近では、企業の経営者がこの問題の重大性に気づき、基幹システム刷新をDXの一環として位置付けるケースも増えている。で、その際には「変革が主」となる。要は、業務をERPなどのシステムに合わせる形で改革を遂行するわけだ。行政機関のシステム刷新もそうなればよいが、それは期待できない。各省庁の大臣や自治体の首長のほとんどは、国民、市民向けのシステムやアプリには多少なりとも関心を持つだろうが、バックヤードの基幹システムなど知ったことではないからだ。

 「デジタル庁にはIT予算の権限や監督権があるから、何とかなるんじゃないか」と考える人はまさかいないと思うが、念のために書いておく。デジタル庁が持つのはITに関わる権限だけだからな。他の役所の業務に手を突っ込む権限はない。「予算で縛って余計に機能をつくらせなければよいのでは」というのも甘い。各役所にへばりついている人月商売のITベンダーが、要望に合わせたシステムを予算の枠内でつくるからだ。赤字になってもシステム運用段階で回収すればよい。デジタル庁はそこまで目を光らせることができるだろうか。

 特に危ういのは、デジタル庁から「遠い」自治体の基幹システムだ。各自治体のシステムを標準化、クラウド化を推進するという。政府機関のシステムともども、自治体のシステムもデータ連係できるようにしようというわけだが、それだけのために膨大なお金をかける。データ連係できるようにデータ項目やインターフェースなどを標準化したら、後は自治体の利用部門の要望に応じて、旧システムの機能をこれでもかとつくり込む。担当するITベンダーはそれこそ笑いが止まらないだろう。

 「これまで役所のシステムは縦割りだったのだから、データを連係できるようになるだけでも画期的なのではないか」との意見もあるかもしれないが、それは違う。膨大なお金、つまり税金をかけたのに、データ連係という行政システムの最低限の要件だけを満たした、代わり映えのしないシステムが出来上がるだけだぞ。行政のDX、つまり行政改革は全く進まないのに、誰もが「DXに成功した」と口裏を合わせる。今のところ、そんな結果しか見えてこない。

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