「そういえば、SES(システム・エンジニアリング・サービス)契約なら再委託は原則禁止ですよね」。人月商売の下請けITベンダーの人と、例の「尼崎市のUSB紛失事件」でひとしきり盛り上がった話の流れで、私はそんなことを言った。すると「えっ、そうだったっけ」と想定外の反応が返ってきた。いやいや、SES契約なら再委託は原則禁止に決まっているじゃないか。

 その人は「うーん、どうだったっけな。そんな訳がないと思うが」と全くピンと来ていないようだった。要するに、今まで考えたこともないかのような風情だった。まあ、開発サイドの人だから仕方がないのかもしれない。だが日ごろ、SIerからシステム開発の一部を請け負って、さらに3次請けのベンダーにSES契約などの形で仕事を投げているのだろうから、そんな常識はわきまえていても不思議ではないはずなのだが。

 ちなみに読者の中にも「えっ、そうだったっけ」と思った人が大勢いたはずだ。実はその後、ユーザー企業のIT部長も含め何人かのIT関係者に聞いてみたが、誰もが似たような反応だった。ただし、今回は聞く機会はなかったが、これがITコンサルタントなら即座に「そんなの当たり前でしょ。何を今さら聞くんだ」と言われてしまうに違いない。そう、SES契約はいわゆる準委任契約を、人月商売のIT業界風に言い換えているにすぎないからな。

 「SES契約なら再委託は原則禁止」というのは、二重派遣の禁止のように法律上の問題ではない。単なる契約上の問題だ。もう少し言えば、請負契約なら再委託は原則OKだ。では、なぜ請負契約なら原則OKで、SES契約つまり準委任契約なら原則禁止なのか。話は簡単だ。請負契約ならITベンダーなどの受託者は成果物、つまり業務の結果に対して責任を負うのに対して、SES契約/準委任契約では業務の結果に責任を負わないからだ。

 請負契約の場合、ITベンダーがシステムといった成果物に対して責任を持つのだから、どのようなやり方でつくるのか、どんな技術者を動員するのかはITベンダーの裁量の範囲だ。一方、SES契約のように業務の結果に責任を持たないのなら、ITベンダーが勝手に別のベンダーに再委託することは原則許されない。準委任契約が多いコンサルティングを例にとると分かりやすい。コンサルティング会社が勝手に業務を再委託したらどうなるか。駄目でしょ、それ。だから、ITコンサルタントは即座に「そんなの当たり前でしょ」と言うわけだ。

 ただし、それもこれも契約の中身次第だ。請負契約であっても契約書に「再委託禁止」とうたってあれば、請け負ったITベンダーが再委託することはできない。SES契約/準委任契約でも「再委託を認める」とあればOKとなる。「原則OK」「原則禁止」と書いてきたのはそのためだ。さて、ここから今回の「極言暴論」の本題に近づいていく。現実にはSES契約のチェーンでつながる多重下請けはざらにある。それはなぜか。まさかその全ての契約書に「再委託OK」と書いてあるわけではあるまい。

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