ITベンダーの技術者なら認識していると思うが、国や自治体向けの仕事ほどばかげたものはない。要件がブレブレで突然の仕様変更や手戻りは当たり前。で、プロジェクトが炎上して赤字になれば「業者がばかだからだ」となり、逆にリスク分を料金に乗せた結果、大きな利益が出れば「業者が甘い汁を吸っている」となる――。少し前にTwitterでこうつぶやいたら「その通り」といった賛同のコメントが多数寄せられた。まさに官公庁は「最低最悪の客」である。

 そんな訳なので、官公庁のシステム開発や保守運用案件を担っている技術者には申し訳ないが、私は「まともなITベンダーだったら、官の案件には近づくべからず」が正しいと思っている。もちろん官公庁が自社のパッケージソフトウエアやクラウドサービスなどを言い値(随意契約)で買うというのなら話は別だが、開発か保守運用かを問わず人月商売の案件では、それこそまともなビジネスが成立しないからだ。

 この「極言暴論」で何度も言っていることだが、あらゆる商取引では客も発注者としての責任を負う。発注者責任というと大げさに聞こえるが、要は「約束(契約)をほごにするな」とか「対価をきちんと支払え」といった当たり前のことだ。システム関連の案件で言えば、最低限の発注者責任はもっと基本的なものとなる。それは「何をしてほしいのか、何をつくってほしいのかを明確にして、途中で気を変えない」ということである。

 客の要件が曖昧だったり、システム開発プロジェクトの途中で要件がブレたりするのはよくあることで、人月商売のIT業界では一種の常識だ。だが、客が最低限の発注者責任を果たしていないわけだから、商取引の原則から言って、この常識はそもそもおかしい。何をつくってほしいのかが曖昧なのに発注するのは、目的地が分からないのに道を聞くようなものだ。ITベンダーとしては、相手が発注者責任を果たせないのなら「危ない客」あるいは「愚かな客」と認定して、案件を請け負うべきではない。

 だから、まともなITベンダーは官に近づくべからずなのである。何せ官公庁は最低最悪の客。役所のIT部門の大半は素人集団と化しており、役所内での地位も低いため、要件定義やプロジェクト管理をまともにできない。まもなくデジタル庁が発足するが、たかだか500人規模のそうした「外付け」組織によって、全ての役所の案件で発注者責任を果たせるようになるとは、とても思えない。それに後で書くが、政治的状況などによっては、いつでも「発注者責任? そんなもの知らねぇよ」となるはずだ。

 まあ、こんなふうに私が力んで言わなくても、まともなITベンダーは(そしてまともでないITベンダーも)、リスクが高すぎるので官の案件には近づこうとはしない。なので、めでたしめでたし……うーん、とは言えない。一般公開入札なのに現行システムに関わる既存のITベンダーしか札を入れない「1者応札」が横行する事態となっているからね。その結果、競争原理は働かず、既存のITベンダーが丸もうけとなる。さすがに恒常的に丸もうけなら由々しき問題だ。何せそのお金の出どころは税金だからな。

続きを読む 2/4 危ない客、愚かな客でも「お客様」になれる

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