パソコン画面の「こちら側」までブラックボックス化

 さて、2つ目のブラックボックスだ。こちらは1つ目のテクノロジーサイドと違って、業務サイドのブラックボックス化だ。こちらは極めて分かりやすい話だ。例えば、企業そして官公庁などの基幹系システムは、その組織の業務のやり方や業務プロセスなどをソフトウエアの機能として組み込んでいる。以前に人が紙とペンとそろばんなどで行っていた個々の業務や、一連の業務の流れ(プロセス)がシステムによって機械化されている。

 随分前の話だが、日本企業にコンピューターシステムが導入され始めた頃を知るシニア技術者から、当時の話を聞いたことがある。昔、企業には社内の業務に精通した「生き字引」みたいな人が何人かいた。初めてシステムを導入する際には、そうした生き字引たちの協力も得て、自社の業務プロセスなどをほぼ全てあぶり出したそうだ。

 あぶり出した業務プロセスは紙に書いて、システム導入プロジェクトの推進室の壁一面に貼り出したとのこと。で、壁に貼り出された業務プロセスを眺めながら、会計処理など各業務のプロセスのどの部分を機械化(システム化)するのかを、業務担当者やITベンダーの技術者などを交え、かんかんがくがくの議論をして決め、会計などのシステムを順次構築していったという。

 そんな訳なので、企業システムの黎明期には、多くの日本企業で業務プロセスが完全に見える化されていた。それを基に業務の一部をソフトウエアによりシステム化したものだから、システム導入によって業務はものすごく効率化された。ただ、業務プロセスなどがソフトウエアの機能として組み込まれた途端、ブラックボックス化も進んだ。業務担当者は時を経るに従って、システム化する前にやっていた業務を忘れてしまうからだ。

 しかも半世紀近くの時を経て、今やソフトウエアでブラックボックス化された業務の範囲は広大になった。特に大企業では、従業員はパソコン画面の「向こう側」で処理されている業務プロセスについてほとんど無知と言ってよい。そういえば、システム化の進んだ大企業では、従業員が自社の業務を知らな過ぎることにIT部門が危機感を持ち、ソフトウエアのブラックボックスの中で粛々と処理されている業務プロセスを、何らかの形で従業員に「見せよう」というプロジェクトを進めていると聞いた。

 このソフトウエアによる業務のブラックボックス化は、もう行き着く所にまで行き着いた感があったが、さらに「延長戦」があった。それが日本で一大ブームのRPAの導入である。RPAではご存じの通り、システムからデータを「コピペ」して他のシステムに入力するなどの作業を自動化するソフトウエアロボットを多数つくり出す。これによりパソコン画面の向こう側だけでなく、「こちら側」に残されていた業務までをブラックボックス化してしまうわけだ。

 ソフトウエアロボが代行する作業の多くは、単純作業だけれどもシステム化できなかった領域だから、目先の業務の効率化への貢献度は大きい。人海戦術でデータ入力などをしてきた企業では、コンピューター黎明期のシステム導入に匹敵するくらいの効果があったりする。だから、業務の変革でも何でもないのに「我が社のDX(デジタルトランスフォーメーション)の成果だ」と悪ノリする経営者は多い。しかも、既存のシステムだけでなくRPAで業務を二重にブラックボックス化する恐ろしさに気づいていないのだ。

関連記事 社長を狙う役員にDXは「とてもおいしい」、それなのにIT部門を排除する裏事情

次ページ ブラックボックス化しても「中の人」さえいれば