ITオンチの技術者がもたらす害毒

 このITオンチの技術者は本当に困ったちゃんである。というか、今のデジタルの時代には最悪の存在といったほうがよいかもしれない。ちなみにITオンチの技術者は、プログラミング経験がほとんどない自称システムエンジニア(SE)やコーディング作業しかやったことのないコーダーのことだけじゃないからな。実際にプログラミングなどができる本物の技術者も含まれるし、彼ら/彼女らは大きな影響力を持つから「困ったちゃん度」も高い。

 何せ、周りからはITの専門家として認知されているために、素人である経営者をはじめとする文系のビジネスパーソンに対してドスが利く。DXで盛り上がる文系のビジネスパーソンがこうしたITの専門家に「AI(人工知能)を使ってあんなことができないか」と打診したとしよう。その際、ITの専門家が「何を流行に踊らされているのですか」とでも恫喝(どうかつ)すれば、文系のビジネスパーソンは有効な反論ができずしゅんとなってしまう。

 こうすることで、この手のITの専門家、つまりITオンチの技術者は自分の知らない最新技術の話を封殺できるわけだ。だが、それがもたらす害毒は下手をしたら企業に致命傷を与えかねない。今や最新技術がビジネスを覆すゲームチェンジャーにもなり得るからだ。まともな経営者が「量子コンピューターは我が社の事業にどんなインパクトがあるか」と聞くのも、それ故のことだ。

 インターネットが当たり前のものとなりクラウドサービスが登場して以降、最新技術がそれこそあっという間に普及するようになった。クラウドなどに実装された最新技術はベータ版として利用でき、それを使った新たなビジネスが模索される時代だ。それ故に今は、ITベンダー以外の企業であっても、最新技術の動向を常にウオッチ・評価しておく必要がある。なのにITオンチの技術者はそれを怠る。もはや、これは職務怠慢以外の何物でもない。

 そういえば、既存のビジネスを覆すほどの大げさな話ではないが、少し前にこんなトホホな話があったな。ちょうど「Gmail」などのクラウド型メールサービスが一般消費者に浸透し、クラウド型メールを核にした企業向けコラボレーションツールが話題になっていた頃の話だ。誰かにふき込まれたのかもしれないが、ある大企業の経営者がコラボツールの利便性に関心を持ったそうで、IT部門で技術者一筋のキャリアを積み上げたIT部長に「当社も導入すべきではないか」と打診したという。

 すると、このIT部長はまさに「何をマスコミに乗せられているのですか」的な反応をしたそうだ。「クラウドベースですから、セキュリティー面で問題があります。そもそも(パッケージソフトウエアの)グループウエアを既に使っているのに、なぜそんなリスクを取る必要があるのですか」。こう言われてしまうと、文系ビジネスパーソンである経営者はしゅんとなるしかない。本当は既存のグループウエアに色々と問題があるのだが、この件はそれっきりになってしまった。

 実はこの話にはオチがある。それから数カ月後に、同業のライバル企業がこのコラボツールの導入を発表したのだ。新聞にもIT活用の先進事例として取り上げられたから、IT部長に導入を「阻止」された経営者は面白かろうはずがない。周りに「あの判断は大失敗だった」とぼやいていたそうだ。ちなみに、ITオンチの(元)技術者であるIT部長がその後どうなったかまでは、確認していないのであしからず。

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