日本で異常に発達した人月商売のIT業界は、シリコンバレーを抱え画期的な新技術や新サービスを次々と生み出す米国のIT産業とは似ても似つかない。これはこの「極言暴論」でいつも話題にしているテーマだが、今回はある観点から改めて人月商売のIT業界の「アカン」点をばっさり斬ってみたい。題して「人月商売のITベンダーは『人売り業』なのに、なぜ高く売ろうとしないのか」である。

 この書き出しだと、極言暴論の古くからの読者から「おいおい、ITベンダーが人売り業だというのは同意するとしても、『高く売れ』と言ってしまったら、人売りを肯定することになるじゃないか」と怒りの声が上がりそうだ。もちろん、私は人月商売という名の人売り業は以前からアカンと思っているし、ここに来て変節したわけでもない。その辺りは追々書き込んでいくので、しばしお待ちいただきたい。

 その前に、人月商売のITベンダーが「人売り」である点について解説しておこう。最近になって極言暴論の読者になってくれた人もいるかと思う。そんな人たちは「さすがに人売りとは言い過ぎでは」と思っているかもしれないので、その点をまずすっきりさせておきたい。この際だから、最近の記事では誰もが理解している用語として説明を省いている「人月商売のIT業界に関する基礎用語」について簡単に解説しておこう。

 まず「人月商売」である。米国のITベンダーや日本でもITベンチャーなら、ソフトウエアパッケージやクラウドサービスなどの自社商品を販売して収益を上げるのが基本だが、人月商売の場合、基本的に自社の商品で商売をせず、客のシステムの開発や保守運用を請け負う。で、「技術者1人を1カ月働かせていくら」が人月単価で、それに開発などに必要な人月工数を掛けて料金を決める。既にこの辺りから「人売り」臭がしてくるが、まだまだ先がある。

 この人月商売のIT業界は「多重下請け構造」だとされる。システム開発では、頂点に君臨するSIerが元請けとなり、彼らがパートナーと呼ぶ下請けITベンダーに業務の一部、場合によっては全部を再委託する。で、下請けベンダーは業務をさらに分割して複数の孫請けITベンダーに再々委託し、さらに孫請けベンダーが……。という具合に多重下請けによって作業を進める。だが実は、IT業界を多重下請け構造と言ってしまうと正確性を欠く。

 人月商売のIT業界は、厳密に言うと「ご用聞き」「手配師」「人売り」の3層構造から成る。元請けのSIerは客の要望通りシステムをつくる。「おっしゃっていただければ何でもつくりますよ」だから、ご用聞きである。で、パートナーの下請けITベンダーが手配師として必要な技術者をかき集める。その他の下請けITベンダーは、個々の案件ごとに契約関係によって3次請けになったり5次請けになったりするが、一貫するのは人売りである点だ。経営者自らが「技術者が単価60万円で売れた」などと平気で言うから恐れ入る。

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