この「極言暴論」では最近、企業の経営者の愚かさに焦点を当てることが多くなった。9年前に執筆を始めた当初は、企業のIT部門や人月商売のIT業界の理不尽、不条理を書き並べてきたが、やがて諸悪の根源に行き着いた。言うまでもなく経営者である。ただし、いまだに人月商売にうつつを抜かすITベンダーの経営者は論外過ぎるものの、諸悪の根源というわけではない。日本のIT活用をおかしくした大本はユーザー企業の経営者である。

 諸悪の根源と言っただけで放置しておくのもさすがに無責任なので、本題に行く前に、なぜユーザー企業の経営者が諸悪の根源なのかについて簡単に説明する。経営者は今も昔も、ITに関わることは現場への丸投げが基本だ。で、丸投げされたIT部門は事業部門のご用を聞いて、システム開発や保守運用にいそしむしか手がない。「ERP(統合基幹業務システム)導入に伴って業務改革をしよう」と力んだところで、経営者は知らんぷりだ。事業部門に拒絶され、逆に「あれもつくれ、これもつくれ」とご用を強要されることになる。

 だから、日本ではパッケージソフトウエア製品やクラウドサービスを提供するITベンダーが育たなかった。何せ客のIT部門が事業部門のご用聞きとなっているから、ITベンダーも客のIT部門のご用聞きとなって、技術者をかき集めて要望通りのシステムをつくったほうが手っ取り早い。なので、かつて米IBMと張り合った「栄光の」国産コンピューターメーカーもSIerという人月商売の親玉に落ちぶれ、技術者をかき集める仕組みである多重下請け構造が異常に発達した。そんなわけで、ユーザー企業の愚かな経営者は諸悪の根源なのである。

 さて、今回はこうしたユーザー企業の経営者の愚かさを、いつもとは違う観点で暴論しようと思う。実は、経営者は相当面倒臭い人たちで、どんなことであっても「社長は見識や判断力がない」と部下に思われるのを、ひどく恐れる性質がある。それはITに関しても同じ。勘の良い読者は既に、私が何を言いたいのかお分かりかと思う。だから、経営者はITに関わることは「専門家の君たちの仕事だ」とか言って、IT部門などに丸投げしようとするのである。

 経営者のこうした傾向はデジタルの世になった今も変わらない。「我が社もDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する」とぶち上げたところで、ぶち上げるだけだ。前回の記事で指摘したように、DXビジョンなりDX戦略なりを策定すると(その策定も丸投げなのだが)、それで終了。DXの推進はIT部門やデジタル推進組織に丸投げしてしまう。ビジネス構造を変革しようというのに、経営者がリーダーシップを発揮しないから、DXはたちまち単なる「デジタルカイゼン」に化けてしまう。

関連記事 コピペ同然の「DX戦略」に満足の経営者、あきれた日本企業の末路はこれだ

 そんな訳なので最近、経営者にも「心理的安全性」を確保してあげないといけないのではないか、と思うようになった。心理的安全性とは「組織において各人が拒絶されたり罰せられたりしないとの確信を持ち、臆することなく発言し行動できる状態」を指す。今やDX推進には不可欠の概念と認識されるようになったパワーワードだ。技術者が失敗して罰せられることを恐れたり、アイデアを無視されたりするようでは、DXなんてできないからね。ただ「部下からばかにされるんじゃないか」とびびっている経営者にこそ、これが必要じゃないのか。

次ページ 「自分だけが分かっている」という経営者の本心