
最近、企業サイトの中途採用のページを見る機会が多くなった。言っておくが、転職しようと思っているからではないぞ。ご時世柄、多くの企業がIT人材の中途採用に乗り出しており、募集要項を丹念に読み込むと、その企業のIT戦略やDX(デジタルトランスフォーメーション)の現状がおぼろげながら見えてくるからだ。
「おぼろげながら」と書いたが、企業の中期経営計画などに盛り込まれた、何を言いたいのか分からないDX戦略なんかより、はるかに具体的だ。何せ今、相当の大企業であっても、IT人材の獲得に苦戦している。転職サイトの転職求人倍率などを見ると8倍を超えているから、求めるIT人材を簡単には採用できない。優秀なIT人材に関心を持ってもらうため、中途採用の要項は具体的にならざるを得ない。「入社時は○○システムを開発し、将来は××の領域でご活躍いただきたい」などと記していたりする。
誰もが知っているような大企業ともなれば、SEやプログラマー、アーキテクト、AI(人工知能)技術者、データサイエンティストなど様々な職種を一挙に募集しているから、IT部門以外にどんなデジタル組織やデジタルチームがあり、どんなシステムをつくろうとしているのかも見えてくる。「へぇ、工場単位で運営していた生産管理システムを全面刷新するのか」といった具合だ。こうした情報を組み合わせれば、何を言いたいのか分からなかった中計のDX戦略の「解読」が可能になる。
まあ、そんな訳なので、私のような仕事をしている者にとっては格好の情報源だ。CIO(最高情報責任者)らに話を聞きに行く際には、下調べの対象の1つとして必ず読んでおくことにしている。転職を考えている技術者はもちろん、そうでない技術者も、気になる企業の中途採用のページをチェックしてみるといいだろう。読んでいるうちに転職へのイメージが膨らんで、実際に一歩踏み出すきっかけになるかもしれないしな。転職しないまでも、世間が求める技術領域やスキルが分かって、キャリア形成の参考になるはずだ。
ただ、中途採用の要項が具体的な企業ばかりではない。やはりDXに取り組むために優秀なIT人材が必要とのことだが、中途採用のページを見ても、採用した技術者らにいったい何をやってもらうつもりなのか全く見えてこない企業も少なからずある。まあもちろん、画期的なデジタルサービスを企画していても、ライバル企業やマスコミに察知される恐れがあるから、たとえ優秀な人材の採用のためとは言ってもその情報を出すわけにいかない企業もあるかもしれない。
ただねぇ、そんな企業はほぼないだろう。デジタルサービスの明確な計画があるのなら、何をやろうとしているかを察知されない程度に、転職希望者が将来に夢を感じられるような情報を提供できるはずだからだ。そうではなく、この手の企業は恐らく例のタイプだろう。何かと言うと、「DXの推進をぶち上げたものの、何をやってよいのか見当もつかないので、とりあえず優秀なIT人材を採用して知恵を借りよう」という魂胆のタイプだ。そんな企業があるのかと思う読者もいるかもしれないが、それがごろごろあるのだ。
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