「跳びガエルとゆでガエル」の深刻度

 3年ほど前に、この極言暴論と対をなす私のコラム「極言正論」に「跳びガエルとゆでガエル」の話を書いたことがある。「跳びガエル(リープフロッグ)」とは、先進国が歩んできた発展段階を一気に跳び越えて、新興国で新たな産業が勃興し最先端のサービスなどが普及する現象を指す。IT産業がほとんど育っていない国でも、デジタル革命の波に乗り一気にIT先進国に躍り出るといった現象は、まさにリープフロッグそのものである。

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 一方、日本や日本企業の現状を表したのが「ゆでガエル」である。環境変化により危機的事態が迫っているのに抜本的な対策を打とうとしない企業などを指し、徐々に温度が上がっている水の中にいるカエルに例えた言葉だ。外に飛び出さない限り、やがてカエルはゆで上がってしまう。でも水温の上昇は少しずつだから、迫り来る危機を認識できない。それと同じで、企業も「まだ大丈夫だろう」と考えて現状に甘んじていると破局が待っている。

 この極言正論の記事では、このままじゃ日本を跳び越えていく新興国のリープフロッグを見送りながら、多くの日本企業がゆでガエルとなるぞと警鐘を鳴らしたわけだ。で、3年後の今はどうなったかと言うと、新興国のリープフロッグはやはりすさまじく、日本はどんどん跳び越えられてしまっている。ただ、さすがに湯の温度が熱いと感じたらしく、多くの日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み始めた。最もゆで上がっていた日本政府までデジタル庁の創設に踏み切るほどだから、日本も少しはましな方向に動いている。

 ただ何度も言うように、日本は人月商売のIT業界を保有してしまっている。この人月商売のIT業界の存在が、日本に暗い影を落としているのだ。ゆでガエルの例えの延長線上で話をすれば、企業や行政機関が「気づいたら、熱いじゃないか。こりゃいかん」と思い、ゆでガエル状態から脱却しようとした際、人月商売のITベンダーが「無理して飛び出さなくても大丈夫ですよ。私たちがそばに寄り添っているじゃありませんか」と湯の中に引き留めてしまう。そんなイメージだ。

 具体的に言うと、極言暴論でおなじみの話となる。例えば、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を伴う基幹系システムの刷新は、多くの日本企業にとって長年の課題であり、DXの本丸だ。とりあえず、BPRという困難な変革なのに現場に丸投げしてしまう経営者の責任を横に置いて話を進める。「今風のDX」なのだからという理由で、クラウドサービスとして提供されている外資系ITベンダーのERP(統合基幹業務システム)を採用したとする。さあ、どうなるか。

 本来、システム刷新に伴ってBPRを推進するのなら、グローバルで実績のあるERPが備える業務プロセスに、自分たちの業務を可能な限り合わせたほうがよい。ERPの業務プロセスは、いわゆるベストプラクティスだからだ。先ほど書いた通り、IT産業がほとんど育っていないような国の企業であるならば、このERPをカスタマイズやアドオンなしで使うしかない。だがBPRの苦労はしても、結果としてベストプラクティスを手に入れることができる。まさに業務プロセスのリープフロッグである。

 一方、経営者が丸投げしてしまっている日本企業は、絶対にBPRができない。つまりDXに失敗する。経営者からの厳命がない状態で、「おっしゃっていただければ何でもつくりますよ」という、ご用聞きの人月商売ベンダーが寄り添っているのだから当然である。「現行通りじゃなきゃ駄目だ」という利用部門のわがままに引きずられて、アドオンの山が出来上がる。人月商売のIT業界を保有する不幸とは、こういうことである。もちろん、その弊害はこれだけではない。

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