2025年の崖と2025年問題という2つの悪夢

 さて、考えるのも恐ろしいが、自治体における2025年問題はどんな結末を迎えるだろうか。基幹系システムの理想と現実のギャップの正しい埋め方は、もちろん現実を理想に近づけることであるが、少なくとも政令都市など大規模な自治体ではそんなことは不可能である。IT部門が素人集団で、首長がリーダーシップを発揮しないのなら、「現行通り」を主張する利用部門の抵抗によって、現実を理想に合わせる、つまり既存の業務のやり方を標準のシステムに合わせるという理想は確実に頓挫する。

 ただし、町村など小規模な自治体は「強制的に」業務をシステムに合わせるしかないので、無問題かもしれない。職員が少ないから利用部門の組織的抵抗は少ないし、小規模自治体の案件はもうからないので、もはやITベンダーが要望通りのシステムをつくってくれる見込みはない。ちょうど中小企業のシステム導入と同じだ。いずれかのITベンダーが用意する「出来合い」のクラウドベースのシステムをおとなしく利用するしかない。だがその結果、基幹系システムの標準化が実現するのだから、誠に結構な話である。

 大規模な自治体の場合は、大企業と同じでそうはいかない。前提として、それぞれの大規模自治体では中核の案件を既存のSIerが確実に受注する。これは、他のITベンダーが本気で応札しようとしないから当たり前である。もちろん、たとえその自治体がどんなに危ない客であっても、既存のSIerが案件から降りることもあり得ない。ほぼ全てのSIerが「何があっても絶対に逃げない」ことを旗印にしているから、これもまた当たり前である。

 そして標準化に伴う基幹系システムの刷新プロジェクトはどうなるか。最悪のケースはもちろん大炎上。首長が中途半端にITをかじり「業務をシステムに合わせよ」と言ったまではよかったが、そのための業務改革を現場に丸投げしたりすれば簡単にこの結末となる。この場合、プロジェクトの途中で必ず利用部門から「これじゃあ業務が回らない」と反乱の火の手が上がる。プロジェクトは迷走し「納期はどうするんだ」「追加コストはどちらが負担するんだ」などともめにもめ、プロジェクトが頓挫、訴訟沙汰になるというおなじみのパターンをたどる。

 もっと穏便なケースでは、標準の基幹系システムは無事完成するが、ついでに山のような付帯システムも出来上がる。例えて言うなら、企業でERP(統合基幹業務システム)を導入したのはよいが、山のようなアドオンをつくる。あれと同じである。行政DXも何もあったものではない。ほぼ現行通りのシステムを膨大なコストをかけてつくるわけだ。すると、誰が負担するのかね。まさか全額を税金からの出費とはいくまい。だとするとSIerに泣いてもらうのか、高めのシステム運用料で回収してもらうのか。いずれも愚劣な話となる。

 そういえば、自治体のIT関係者からは「2025年度の期限で間に合うのか」「間に合ったとしてもポンコツシステムが出来上がるのではないか」といった懸念の声が上がっているという。確かに空前の技術者不足の折に自治体が一斉にプロジェクトを立ち上げるのだから、納期と品質の面で悲惨なことになる可能性もある。「発展途上国で電力などの社会インフラがしょっちゅう止まるのが普通なように、我々もシステム障害が度々発生することに慣れなければいけない」。そんなブラックジョークともつかぬ話もあると聞いたぞ。

 いずれにせよ、リーダーシップなき行政の「なんちゃってDX」がこのまま進めば、間違いなく2025年問題は深刻になる。DXと言えば市民向けのデジタルサービスの立ち上げしか思い至らないリーダーたちの意識を、何としても基幹業務の改革にも向けさせなければならない。そういえば企業においても、デジタルサービスの創出には熱心でも、既存の業務の改革や基幹系システムの抜本刷新には無関心な経営者があまたいる。こりゃ、下手をしたら2025年の崖(からの転落)と2025年問題が同時進行する。くわばらくわばら、である。

『アカン! DX』

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著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2022年4月11日掲載]情報は掲載時点のものです。

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