「声のでかい連中」は標準化の難しさを知らない

 大半の読者はここまで読んで違和感を覚えることはないかと思うが、中にはそうではない人もいるかもしれないので、一言書き添えておく。先ほど「手離れのよいパッケージソフトウエアやクラウドサービスを買ってくれるのなら話は別」と書いた。つまり新規の客でも危ない客でも、製品やサービスをそのまま使ってくれるのならITベンダーは大歓迎だ。だとすると、国が自治体の基幹系システムの「標準」を策定し、それを基にITベンダーがクラウドサービスを構築して自治体に提供するわけだから、本来なら大歓迎となるはずだ。

 この理屈をまともに信じるなら、ITベンダーはSIerであろうが、それ以外のベンダーであろうが、空前絶後の自治体IT商戦に積極的に参戦してくるだろう。だから、その理屈を信じ切った人たちは、先ほど私が述べたことに違和感を覚えてもおかしくはない。「いやいや、そんな脳内お花畑の人はいないだろう」と多くの読者が笑うかもしれないが、それがごろごろいるのである。

 例えばITやデジタルを分かっていると称する政治家や、識者と呼ばれる大学教授の中にも、その手の「センセイ」は大勢いる。そういえば、公正取引委員会もその手の脳内お花畑組だったな。さらに言えば、デジタル庁や企業が集めているデジタル系の「優秀な」技術者も似たようなものだ。確かに専門分野やプログラミングスキルでは優秀なのだろうが、単純にシステムを標準化しさえすれば全てうまくいくと思っている。確かに標準化すればうまくいくのだが、問題はどうやって実現するのかだ。その難度を理解していない。

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 要するに、彼ら彼女らはシステムの標準化「だけしか」考えていない。システムの在るべき姿にしか関心がないのだ。だが実際に標準化しなければいけない対象は、データ項目やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)に限らないぞ。システムに組み込まれる基幹業務のプロセスなども標準化しなければならず、そうすると各自治体で業務改革が必要になる。ところが、この業務変革がいかに重要で、いかに難しいかを、政治家やデジタル系の優秀な技術者などの「声のでかい連中」はほとんど考慮していないのだ。

 では、そのことを分かっている人たちはどうしているのかというと、誰も彼もご難を恐れてか沈黙を決め込む。SIerの関係者やSIerからデジタル庁へ転職した技術者はもちろん分かっているし、自治体など公共機関のIT部員も分かっている。そして彼ら彼女らは、首相や自治体の首長らが強力なリーダーシップを発揮しないと、業務改革などできないことも知っている。言い換えれば、基幹系システムの刷新などを通じた行政DXは失敗に終わることを予想しているのだ。

 本来、行政DXが失敗するのが分かっているのなら、声を大にして問題点を指摘しなければならない。だけど先ほど書いたように、声のでかい連中は一顧だにしない。だから「物言えば唇寒し秋の風」である。特にSIerの関係者やそれ出身の技術者、それにIT部員たちは長年、業者扱い、二流部署の人扱いされてきたので無力感が染みついている。どうせ言っても無駄だし、不用意に発言して「じゃあ、どうすんだよ」と突っ込まれると案を持ち合わせていないので恥をかくか怒られるかである。だから沈黙を守るわけだ。

 かくしてデジタル庁かいわいでは、自治体の基幹系システムの理想的な標準が出来上がる。これを「机上の空論」ともいう。一方、自治体の現行システムには、各自治体独自の業務のやり方がびっしりと組み込まれている。政令都市クラスになると、本庁のみならず区役所レベルで業務のやり方が違うというから、そりゃ恐ろしい代物だ。さて、この理想と現実のギャップをどう埋めるのか。考えてみても、ろくな結末は描けない。まさにこれが記事の冒頭で書いた2025年問題の本質である。

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