「できません」とITベンダーが言う理由

 2025年問題を深掘りするに当たって、まずはITベンダーの視点で今の状況を眺めてみよう。ITベンダーが自治体などの客から提案を求められても「うちではできません」と腰が引ける理由は、単なるリスク警戒だけではない。少し考えればすぐに分かると思うが、人月商売のIT業界の構造変化もその背景にある。

 簡潔に言えば、元請けのITベンダー、つまりSIerには、客の要望通りのシステムをつくるという単純な人月商売を、これ以上増やすつもりがないのだ。何せ空前の技術者不足が続いているから、そもそも人手が足りない。自社の技術者も足りないし、下請けITベンダーの技術者も足りない。どのSIerも既存顧客への対応で手いっぱいで、新規の客が手離れのよいパッケージソフトウエアやクラウドサービスを買ってくれるのなら話は別だが、そうでないならとても手が回らない。

 それに今は活況とはいえ、人月商売に先がないことぐらいSIerも分かっている。自社の技術者を新規の客の人月商売に回すぐらいなら、新規事業の立ち上げにアサインしたほうがよいと考えている。一昔前なら、不況で技術者が余剰になると新規事業を立ち上げ、好況になるとそのチームから技術者を引っこ抜いて人月商売の案件に回し、新規事業とやらは雲散霧消、そんなパターンを繰り返していた。しかし、今はさすがにそれはない。クラウドサービスやコンサルティングなど新規事業から技術者を抜くわけにはいかないのだ。

 そんな訳なので、既存の客ならまだしも、公共機関か企業かを問わず新規の客の案件は、よほどおいしいもの、例えばトヨタ自動車の案件で「トヨタのシステムをつくった」と公表してよいといったぐらいの案件でなければ避けようとする。客がSIerに入札やコンペへの参加を打診しても「当社の技術力では無理です」などと情けないことを言って逃げるものだから、客は「どうなっているんだ」と驚き、ぼやくわけである。

 もともとSIerは新規案件には慎重だ。客が広く提案を求めると言っても、実は最初から既存のITベンダーに発注を決めている場合が多いからだ。自分たちは時間と人的リソースをかけて提案しても、既存ベンダーから値引きを引き出したり、「公正な入札」の形づくりをしたりするために利用される。いわゆる「当て馬」を警戒していたわけだ。ところが今や、受注してしまうとリソース的に回らないので、ガチの真剣勝負の案件も避けるようになった。実際にSIerが競合から客を奪うといったリプレース案件は、以前に比べ随分少なくなった。

 かような訳で、今のSIerには新規の客の案件を取りに行く機運はほとんどない。そして、さらに個々の客固有のリスクの問題がのしかかる。まず一般的に新規の客はリスクが高い。当たり前である。客の権力構造といった内情や業務内容をよく知らないからである。仮にIT部門が素人集団で、トップがITに理解がなく、利用部門が身勝手な要求をするなどという「危ない」客だった場合、システム開発プロジェクトは確実に炎上する。それでも納期厳守を要求し、追加料金も払わないモンスター客だと、それはもう悲惨なことになる。

 さて、自治体の話に戻ろう。自治体など公共機関は99%の確率で危ない客であり、同じぐらいの確率でモンスター客である。これには反論の余地はないはずだ。IT部門は素人集団で、首長はITを分からないか、ITを分かるふりをしてムチャぶりをするかだ。利用部門のわがままも周知の通り。そして大炎上しても、公益を盾に納期厳守を強要し、税金の無駄遣いは許されないとして追加料金も払わない。それが新規の客だったら、あえて案件を受注しようという愚か者はいるはずがないではないか。

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