いわゆる「プロのCIO(最高情報責任者)」や優秀な技術者が企業を渡り歩き、転職先の企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役として旗を振る――。日本でもようやく転職が当たり前になり、私は率直に良い傾向だと思っていた。何せ最近の日本企業はアカン話ばかりだからな。転職文化の定着は数少ない「慶事」なので喜んでいたわけだ。ところが、である。どうやらそれは私の早合点だったようだ。

 「彼ら彼女らは皆、ある種の被害者ですよ。日本企業では就任後2年もすれば居場所がなくなる」。少し前に、米国暮らしが長い日本人コンサルタントがそんな話をしていた。日本企業でも外国人の役員や生え抜きではない役員が増えてきたと私が言ったときの反応だ。この人が言うことには、日本企業に三顧の礼をもって迎えられた外国人の役員が失脚同然となって辞めていくケースが幾つもあるとのことだった。

 そのとき私は「そりゃ、外国人なのだから2年もすれば次のポジションを探すだろう」とのんきに考えていたのだが、後日思い返してみて、確かにこのコンサルタントの言う通りかもしれないという結論に至った。例えば将来の社長やCEO(最高経営責任者)の候補として迎えられたはずの外国人の役員が数年で退職したといったニュースを目にしたことが何度かある。それは日本人でも同じで、経営者候補として入社した人がいつの間にかいなくなったり、経営者になっても成功できずに去っていったりする。

 よく考えてみると、それはCIOでも同じ。今、日本企業ではDXの旗振り役としてCIO、あるいはCDO(最高デジタル責任者)を外部から招へいするケースが格段に増えている。例えば日経コンピュータに「CIOが挑む」というインタビューコラムがあるが、最近登場したCIOの大半は外部からの招へい組である。そういえば、少し前に登場した大企業のCIOは、自身も含め2代続けて外部招へい組と言っていたな。

 こうした外部から招かれたCIOは、2~3年で別の企業に転職するケースが多い。私は「これこそプロのCIO」として称賛していた。だってそうだろう。「経営機能としてのCIO」の役職を担う能力やスキルがあるから、幾つもの企業に転職して、それぞれで実績を上げる。まさに欧米企業などのCIOと同様にキャリアを積んでいるわけだから、私としてはこうしたプロのCIOの活躍に大きな期待を寄せてきたわけだ。

 だが、冒頭のコンサルタントの話を聞いて、改めてこうしたプロのCIOたちから聞いた話を思い返してみた。すると、彼ら彼女らは無念の言葉を結構口にしていたことに気がついた。さすがに「居場所がなくなった」といったトホホな話は聞いたことがないが、「3年間いろいろと頑張ってみたが、組織文化まで変えるのはなかなか難しかった」などのプチ敗戦の弁はよく耳にした。プロのCIOたちが転職するのは、「その企業での仕事をやり終えたから」というよりも「その企業での仕事に見切りをつけたから」というケースが多いのだ。

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