劣化して素人集団と化したIT部門――。このフレーズは、この「極言暴論」で何度も書いてきた企業のIT部門の惨状を端的に示す。では、なぜ多くの企業でIT部門が劣化して素人集団と化したのか。実はこれまで、私は経営者の無理解による予算削減や人員リストラなどを理由として挙げていたが、それだけでは分析として全く不十分だった。かなり反省している。

 IT部門、あるいはシステム子会社における心理的安全性の欠如、あるいは恐怖政治による「絶対に失敗できない」との守りの意識、むしろおびえの感情と言ったほうがよいかもしれないが、それがIT部門をむしばみ腐らせた。考えてみれば当たり前だが、失敗に対する「懲罰」を恐れるような状態では、新しいことは絶対にしたくない。当然、自社のビジネスに貢献する能力は劣化するし、ITの最新技術を無視することで素人集団となっていく。

 前回の極言暴論の記事でも少し書いたが、改めて見渡すと、IT部門やシステム子会社に対して恐怖政治を敷いている企業は結構多い。いや、企業というよりも、CIO(最高情報責任者)やIT部長、あるいはシステム子会社の社長あたりが「個人的に」恐怖政治を敷くと言ったほうがよいかもしれない。システム障害やサイバー攻撃の発生による自分の失点を避けたいというサラリーマン根性からか、マイクロマネジメントの権化となり、ささいな失敗も許さず人前で厳しく叱責するといったパターンだ。

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 こういった恐怖政治を敷くタイプの役員や管理職の下では、恐怖政治が「下」へとまん延していく。何せ誰もが自分の失点を恐れるので、自分の部下を厳格に管理しようとするからだ。そうした恐怖政治のピラミッドの底辺に位置するのが、ITベンダーの常駐技術者たちである。ここが大笑いするポイントなのだが、システム保守などをITベンダーの常駐技術者に丸投げしているくせに、常駐技術者を管理ならぬ監視しようとする。で、「業務報告書のフォントが指定と違う」と怒鳴り散らすという愚かな状況が繰り返される。

 そんな恐怖政治の実態をリアルタイムに直接聞けることはめったにない。ただ、IT部長やシステム子会社の社長が交代したタイミングで当事者たちに会ったりすると、「前任者が恐怖政治を敷いたせいで、組織がガタガタになった」との嘆きの声を聞けたりするわけだ。実際に、恐怖政治は組織をガタガタにし、IT部員らは保身から新しいことを一切拒絶する体質となる。もちろん、それによってシステム障害などを防げるわけでもない。

 ここまで極端ではなくても、多くのIT部門やシステム子会社のマネジメントには恐怖政治の要素が入り込んでいる。「IT部門の仕事は失敗が許されないので大変だ」などと言っている管理職がいるようなら、ほぼ間違いない。失敗しないことなどあり得ないのだから、「失敗が許されない」と言っている時点でアウトだ。当然、人事評価は減点主義だろう。それならば人前で厳しく叱責するようなことがなくても、心理的安全性は欠如するから、恐怖政治を敷くのとほぼ同じ効果がある。

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