
「木村さん、『DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進せよ』などと書くのは、もうやめたほうがよくないですか。逆に、このくだらないDXブームに水をぶっかけるべきでは」――。少し前に、ある人からこんな「忠告」を受けた。そのときは「何を言っているんだ。この人は」と思い「ご意見承りました」程度の対応で済ませていたが、最近はその通りかもしれないと思い始めている。別に洗脳されたわけではないぞ。この人が言ったことは基本的に間違っていないからだ。
まず「このくだらないDXブーム」との認識だが、私も99%賛同する。「なぜ賛同するのか、しかもなぜ99%なのか」と読者に問い詰められそうなので、まず理由を説明しておく。DXブームは最初からくだらなかったわけではなく、ブームが盛り上がるとともに、どんどんくだらなくなっていったのである。要するに、DXでも何でもないような取り組みまでが「DXだ」と言いはやされるようになったのだ。前回の「極言暴論」で指摘した、偽りのDXの横行である。
関連記事 経産省も反省する「2025年の崖」の顛末、SIerを肥え太らせた偽りのDXの行方その最たる例、そして最も深刻な例が前回の記事で書いた通り、単なる基幹系システムの刷新を「我が社のDX」と勘違いしたり強弁したりすることだ。そういえば、定型業務をソフトウエアロボットで自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しただけで、「我が社もDXを推進している」と妄想する経営者まで現れた。最近はリスキリング(学び直し)ブームも重なってか、DXの概要やデータ分析の基礎をeラーニングで教えただけで「DX人材を育成した」と言い出す企業も登場する始末だ。
何度も言っている通り、DXとは「デジタル(=IT)を活用したビジネス構造の変革」である。変革の内容は、デジタルビジネスの創出・育成によるビジネスモデル変革であってもよいし、外国企業にかなり水をあけられている生産性を向上させる業務改革であってもよい。ただし目的はあくまでも変革であって、デジタルのほうではない。にもかかわらず、まともな業務改革をせずに、基幹系システムを入れ替えたりRPAを導入したりするのをDXと強弁する。それに、DXについて「雑学」を仕入れさせただけの人が何でDX人材なんだ。
新ビジネスの創出・育成のほうなら多少はDXぽいのだが、PoC(概念実証)を繰り返すばかりの企業も多い。もちろん、新ビジネスの創出は困難だから失敗しても一向に構わないが、失敗を教訓に本気で新ビジネス創出を目指しているのかと問うと、一気に心もとなくなる。「失敗を恐れずチャレンジする」ことは重要だが、「失敗してもいいや」とは全く異なるはずだ。スタートアップが同じことをやったら、たちどころに倒産の憂き目に遭う、というか起業すらできないような取り組みが、大企業では「我が社のDX」としてまかり通っている。
これは、企業のDXの取り組みを報道するメディア側にも大いに問題がある。取材先の企業が「DXだ」と言えば、DXとして書いてしまう不勉強な記者が多過ぎる。かくして、デジタル(=IT)の取り組みなら何でもかんでもDXとなる。少し前にメディアに登場していて驚愕(きょうがく)した「DXを活用して」なんて表現は、今ではちょくちょく見受けられるようになった。何のことはない。「ITを活用して」のITをDXに置き換えただけである。要するに、DXブームは腐ったのだ。
Powered by リゾーム?