利用部門の言いなりで陥るパラドックス

 結局のところ、基幹系システムなどの刷新では利用部門に業務改革をお願いし、業務プロセスをシンプルにして見える化しないと、プロジェクトは難航し、場合によっては破綻してしまうのだ。ERP(統合基幹業務システム)の導入などでは通常、システム刷新に取り組むために業務改革を実施しなければならない。

 当然、これまで書いてきたように利用部門の人たちは「冗談じゃない」と思い、現行通りのシステムを要求することになる。しかも、ここには一種のパラドックスがある。利用部門の要求をこまめに聞いて対応すればするほど、システムの田舎の温泉宿化は進むから、現行通りに新システムをつくるのは難しくなる。つまり、IT部門が利用部門の言いなりになっていればいるほど、システム刷新の際には利用部門の言いなりになるのが困難になるわけだ。

 利用部門からすると、このあたりの理屈を分かるわけがない。基幹系などのシステムはこれまで「現場のお役立ちツール」として使っており、現場のニーズの変化に合わせてシステムを改修するのがIT部門の仕事だと思っていたのに、突然IT部門の都合で「利用部門の業務を変えろ」と言われる。そう考えると、利用部門の怒りは正当だし、現行通りとの要求はわがままでも何でもない。かくして特に基幹系システムの場合、刷新プロジェクトの破綻リスクはMAXとなる。

 はっきり言って、日本企業、特にIT活用が劣悪な製造業の多くはこんな状況だ。だから、刷新プロジェクトの難易度の高さや巨額のコスト、破綻リスクの大きさに恐れおののき、基幹系システムなどの刷新の先送りを続ける企業も多い。その結果、製造業などでは10年、20年と老朽化を極めたシステムが多数存在するわけだ。そうしたシステムは利用部門の部分最適を追求し、結果的に業務の非効率を固定する。だが利用部門からすると、そんなことは知ったことではないのだ。

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 ただし最近では、システム刷新のための業務改革ではなく、本格的なビジネスの変革に乗り出さなくては先のない企業も増えてきた。で、多くの企業の経営者が我も我もと「我が社のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を叫び出し、DXの一環として既存業務のデジタル変革のために基幹系システムの刷新などに乗り出そうとしているわけだ。これで万々歳かと言うと、読者もよくご存じの通りで全くそうではない。

 DXのような全社的な改革では、いわゆる経営の視点を共有することが重要だし、実際に日本企業の経営者はよく「現場の社員も経営の視点を持て」などと言う。では、経営の視点とは何なのか。企業によってニュアンスは微妙に異なるかもしれないが、要するに部分ではなく全体を見て課題やその解決策を考えよということだ。DXの取り組みならば、部分最適ではなく全体最適の観点で変革を推進せよという話になる。

 「そんなの当たり前じゃん」と思う読者がいるかもしれないが、企業の一部分である利用部門にとってそれは容易ならざる事態だ。なぜなら本当に全体最適の観点で変革を推進したら、要らなくなる部門や仕事、そして社員が出てくるかもしれない。特定の部門に特定の業務を集約することで激務になる可能性も考えられる。当然、利用部門の人たちは「冗談じゃない」と思う。相手がIT部門のときのように露骨に「ノー」とは言えないが、いろいろと理屈をつけてサボタージュに走るだろう。ただし、これも利用部門のわがままとは言えない。

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