
人月商売のIT業界において、下請けITベンダーの技術者に対する定番の悪口がある。「できる技術者なんて数えるほどしかいない。プロとは言えないような連中ばかりだ」というもので、SIerの技術者らが口にするのを何度か聞いたことがある。そんな話を聞くと、私なんかは「それじゃ、あんたはプロの技術者なのか」とツッコミを入れたくなるのだが、実はこの件には本質的な問題が潜んでいる。
「パートナー(=下請けITベンダー)の技術者に対して、そんな悪口を言う人はいないぞ」と異議を申し立てるピュアな読者もいると思うので、悪口を聞くことになる状況を少し説明しておこう。もちろん、私が「余計なこと」を言うからだ。つまり、この「極言暴論」で書いているような話をSIerの技術者にしてしまうからいけない。「SIerの人月商売はIT業界の多重下請け構造をフル活用して、大勢の技術者を低コストでこき使うことで成り立っている」といった具合だ。
まあ、こんな失礼な物言いをされたら、誰だってムッとなるよね。で、SIerの技術者から「下請けITベンダーの連中はプロの技術者とは言えない」などといった「暴言」が飛び出してくるわけだ。今でもはっきり覚えているが、ある大手SIerの技術者はさらに強烈な言葉を放ったぞ。「そんな連中に対して、我々が仕事を提供してあげているんです」と。よくもまあ、そんなことを言うなと思ったが、考えてみればそのあたりがSIerの「連中」の本音なのかもしれない。
SIerの人月商売が多重下請け構造をフル活用して、大勢の技術者を低コストで「調達」することによって成り立っているということくらいは、このSIerの技術者も分かっているのだと思う。要するに、少し心に後ろめたいものがあるのだ。それを私に指摘されたものだから、下請けITベンダーの技術者のことを「プロとは言えないような連中ばかりだ」と言い、「そんな連中に仕事を提供してあげているんだ」と強弁することで、多重下請け構造を活用した自分たちの人月商売を正当化しようとしているわけだ。
もちろん、「仕事を提供してあげている」は完全な思い上がりだよな。逆もまた真なりで、下請けITベンダーの技術者がいなければSIビジネスは成り立たない。下請け側から言えば、「SIerの技術者が食えるようにしてあげている」であろう。本来は、かなり欺瞞(ぎまん)的な言い方だが、SIerの幹部がいつも言っているように「下請けITベンダー(の技術者)はパートナー」のはずである。
ただし「下請けITベンダーの技術者はプロとは言えないような連中ばかりだ」のほうは、必ずしもSIerの技術者の思い上がりとは言えない。もちろん、プロジェクトマネジメントのパシリのような仕事ばかりでろくなプログラムを書いたことがない、なんちゃって技術者が何を言うのかというつっこみはあるが、本質的には正しい認識だ。何せ下請けITベンダーで数少ない、できる技術者も同じようなことを言うからね。その意味では、悪口でも暴言でも何でもないわけだ。
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