本当はDXなんてやりたくもない?

 いかがだろうか。恐らくここまでで、私の言いたいことの半分は理解してもらえたのではないかと思う。ただ、今回の記事に対して「なぜマイナンバーカードの取得義務付けといった政治的な話にまで踏み込むのか」といった疑問を持った読者も多いだろう。確かに、いつもの「極言暴論」のノリとは随分違う。実はここから話を一般化したいがために、ここまで踏み込んで暴論してきたのだ。

 記事の冒頭で「経営者からDXを丸投げされたデジタル推進組織が、とりあえずデジタルサービスのためのアプリをつくってみたというのと同じだ」と書いたのを、思い出してもらいたい。日本では政府だけでなく企業でも、組織のトップが「DXを推進せよ」と言うだけで必要なリーダーシップを発揮せず、丸投げされた現場がとりあえずデジタルサービスやアプリをつくってみたというケースは、実にあるある話なのだ。

 何度も何度も言っているように、DXの「魂」はデジタルではなくトランスフォーメーション、つまり変革だ。で、その変革を推進するにはトップのリーダーシップが不可欠だ。そもそも今は、かつての産業革命に匹敵するデジタル革命が進行している。この瞬間、政府も企業も全力を挙げて国のかたちや事業のかたちを変えていかなければ、デジタル後進国の日本は遠くない将来に本物の後進国に落ちぶれてしまうぞ。国や企業のリーダー層の責任は本当に重大なのだ。

 おっと、今回の話はそんなに大上段に構えなくてもいいな。やり玉に挙げたマイナンバーカードの問題は、既定路線として事実上の義務化へ向けて亀の歩みを続けている。だから本来なら、議論をもう一度蒸し返して、制度や仕組みをより良いものにするよう取り組みを加速させるのは、意を決して行わなければいけないほど大変なことではないからな。

 「せっかくの既定路線なんだから、蒸し返して話を難しくする必要はなかろう」と思う人がいるかもしれないが、それは違うぞ。マイナンバー制度が企画された頃と今とでは前提が違う。改めて言うが、今はデジタル革命が加速し、日本の立ち遅れがもはや明白なのだ。前提が違うのだから、トップやリーダー層、つまり首相をはじめとする政治家やキャリア官僚はもう一度議論を促して、マイナンバー制度を突破口に行政のDX、日本のDXの実現へとリーダーシップを発揮していかなければならないはずだ。

 いずれにせよ、日本では政府にしろ企業にしろ、トップが本気で変革に向き合わない。その結果、DXの魂が失われて「デジタル」しか残らなくなる。だから、現場はとりあえずしょぼいデジタルサービスやアプリをつくってお茶を濁すしかない。で、「これは何のために使うの?」「本当に役に立つの?」と問われても「さあ……」としか言いようがなくなる。デジタル庁が「DX庁」や「デジタル変革庁」でないのは、単なるネーミングだけの問題ではない。

 改めて考えてみれば、政府や企業を問わずリーダーの大半は、本音では変革やDXなんてやりたくもないのかもしれないな。何せ日本のリーダーたちの大半は「高齢の男性」という極めて偏ったセグメントであり、従来の組織や集団の中で出世し、権力闘争に打ち勝ってきた人たちだ。うーん、やはりリーダー層の質こそ変革しないといけないのかもしれない。企業や官僚組織のサラリーマンは年功序列でなかなか難しいのかもしれないが、少なくとも政治の世界では可能なのではないだろうか。何せ日本は民主主義国家なのだから。

『アカン! DX』

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著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2022年1月11日掲載]情報は掲載時点のものです。

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