日本企業には2種類の人材が足りない

 改めて念のために言っておくと、社内外のユーザーの反応を見たり、当事者さえ気づいていない要件を明るみに出したりするために「とりあえずつくってみる」ことまで否定はしない。プログラマーが自身のアイデアを膨らませるために「とりあえずコードを書いてみる」のもしかりだ。だが、それは構築するシステムや提供するデジタルサービスのアイデアや要件を詰めるための「事前準備」に位置付けないといけないと思うぞ。

 とにかく、部署間や利害関係者間の調整・説得が面倒だとか、アイデアを煮詰めたり要件を徹底的に洗い出したりするのは大変だとかいった理由で、とりあえずシステムをつくってみて「わあ、便利だ」などと満足しているようでは駄目なのだ。もちろん、経営者によってDXを丸投げされている状況には同情を禁じ得ない。だが、そうであるならば、その愚かな経営者も最大の利害関係者としてシステム開発の上流に引っ張り込むぐらいのことをやらないと、どうにもならないはずだ。

 ここまでトラディショナルな企業における問題として書いてきたが、極言暴論で随分前に指摘したように、ITベンチャー企業や、そこから成長したIT企業でも同じような問題を抱えている。ITベンチャー企業などはデジタルネーティブなので、現場がなんちゃってアジャイル開発のような事態に陥っているわけではない。しかし現実には、経営者は創業者であっても現場を十分に統制できず、事業部門単位で「とりあえずつくってみた」システムが林立するケースも多い。

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 その結果どうなるかというと、特定のデジタルサービスごとにたこつぼ的にシステムをつくったために、事業部門間でデータ連係がうまくできなかったりする。個人情報がどうのこうのという問題じゃないぞ。単にデータの標準化ができていなかっただけの話である。今、政府機関や地方自治体のデータの標準化ができていないということで、デジタル庁が何とかしようとしているでしょ。あれと同じ状態に「先進的な」IT企業も陥っていたりするから驚きだ。

 しかも開発・運用環境がバラバラだ。本来なら、IT部門がアーキテクチャーの統一やインフラの統合などといった全体最適の役割を担ってもよさそうだが、そんな強い権限を持たない。当然、各事業部門で使っている開発ツールもバラバラ。その結果、事業部門間で技術者の異動もままならない状態に陥っている企業もある始末だ。

 結局のところ、システム開発の上流部分をないがしろにして、特に全体最適を考えずに「とりあえず」システムをつくるというのは日本の企業や組織に共通した「病」なのだ。その意味では(なんちゃって)アジャイル開発や(アカン・)ローコード開発は、日本企業にとって「最適の」手法と言えるかもしれないな。

 さて、そんな皮肉を言っていても仕方がない。では、どうするかだが、解はなかなか難しい。ただ少なくとも2種類の人材は不可欠だと思うぞ。CDXO(最高DX責任者)の役割が果たせる経営者と、全体最適の観点から新たなビジネスやシステムをデザインできるアーキテクトだ。CDXOを務められる経営者は1人でよいが、アーキテクトは1人では足りない。優秀なアーキテクトの中途採用はほぼ不可能だろうから、プログラマーをアーキテクトに育てていくしか道はあるまい。

 うーん、今回はアジャイル開発とローコード開発に共通の問題を暴論するつもりだったのに、話を大きくしすぎたな。えっ!「書く前の『上流』できちんと検討しないで、とりあえず書き出したりするから、そんなことになるんだ」だって? それはまさしくおっしゃる通り。

『アカン! DX』

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著 者:木村 岳史
価 格:1980円(税込)
発 行:日経BP

[日経クロステック 2021年12月20日掲載]情報は掲載時点のものです。

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