木村が「デジタル革命を意識せよ」と連呼する訳

 そういえば、私は最近「デジタル革命を意識せよ」とずっと唱えている。この「極言暴論」でも、もう1つの私のコラム「極言正論」でも、何度かそれにちなむ記事を書いてきた。さらにDXなどに関して講演する際にも、冒頭で相当の時間をとって、かつての産業革命に匹敵するデジタル革命の破壊力を意識して、心してDXに取り組めと説いてきた。理由は簡単。デジタル革命を明確に認識しているかどうかによって、DXに対する本気度が全く違ってくるからだ。

 手短に言うと、デジタル革命はインターネットが爆発的に普及し始めた1995年頃を起点に始まった産業や社会の変革で、今も継続中というか、ここに来て動きがますます加速している。だから、日本企業のITオンチの経営者らもようやく気付き、「我が社もDXだ!」と騒ぎ始めたわけだ。1995年当時はネット革命と言いはやされ、2000年頃にはIT革命などと呼ばれたが、今のデジタル革命へとつながる一続きの動きだ。第4次産業革命という正式呼称もあるようだが、全くインパクトのない言い方なので、私は無視することにしている。

 ただ、世の中には必ず「記者ごとき、木村ごときが何をアホなことを言っているんだ」と言う人がいるので、2001年に日本政府が公表したe-Japan戦略の文言も引用することにしている。毎度引用するのは、もちろんこの3つの文章だ。

  • 世界規模で進行するIT革命は、18世紀に英国で始まった産業革命に匹敵する歴史的大転換を社会にもたらそうとしている
  • 産業革命に対する各国の対応が、その後の国家経済の繁栄を左右したが、同様のことがIT革命においてもいえる
  • 変化の速度が極めて速い中で、現在の遅れが将来取り返しのつかない競争力格差を生み出すことにつながることを我々は認識する必要がある

 で、日本や日本企業はこのデジタル革命に完全に乗り遅れ、取り返しのつかない競争力格差をつけられて今に至っている。日本の「失われた30年」はまさに、日本の企業や政府の不作為による「失った30年」。企業や政府はこの事実を深く認識して、本気でDXに取り組まなければならない。そうでないと、他の先進国との競争力格差はますます広がり、日本は「IT後進国」から本物の「後進国」へと転落してしまう……。私は最近、このことを何度も何度も唱えたり説いたりしてきたわけだ。

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 ただ、「デジタル革命か何だか知らないが、そんな大層なものじゃないだろ」と言う人がいまだに存在する。実は私も、ボーッと生きている経営者や政治家、技術者たちを完全に説得するには、いまひとつシャープじゃないというか、ロジックのパーツが足りないなと思っていた。で、ようやくその「ミッシングロジック」が見つかった。大げさに書いたが、話は至って簡単だ。記事冒頭から書いてきた通り、「デジタル革命の進展によりイノベーション(とその猿まね)が容易になった」というのが、日本や日本企業が没落した最大の要因であるということだ。

 デジタル革命以前と比べイノベーションが容易になったからこそ、米国ではGAFAを筆頭に多くのテック企業が新たなイノベーションを生み出し、トラディショナルな企業もそれを活用してどんどん先を行く。優れたテック企業が続々と誕生している新興国も「リープフロッグ(カエル跳び)」して、先進国が歩んできた発展段階を一気に跳び越えていく。そうしたなかで、先進国では日本だけがイノベーションを生み出せず、猿まねもできず「アナログ大国」として取り残されていく。これがデジタル革命に乗り遅れた日本の現実である。

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