新しいサービスやイノベーションは失敗から生まれる――。創業から9年、1200万ユーザーを抱え、フィンテックで大きな存在感を持つマネーフォワードも、数々の失敗や困難を経験した。意気揚々と開発した新サービスは関係者しかユーザーがつかない、接続していたサービスから接続拒否される、大規模停電でユーザーの一部データが消えそうになるといった危機もあった。だが、胃がキリキリと痛み、眠れない日々を乗り越え、ユーザーに向き合ったから、大きく成長できた。マネーフォワードの辻庸介CEOが体験した失敗の数々を記した著書『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』から一部抜粋・再編集して掲載する。今回は、思い入れが強すぎたプロダクトが失敗してしまう理由について。

 創業から9年、僕たちマネーフォワードは数々の失敗を繰り返してきた。紙一重のギリギリの決断や幸運で命拾いをした経験が山とある。しかしそもそも、僕らはスタートから大失敗で始まったのだった。

起業の思いを込めたプロダクトで大失敗

 記念すべき初代プロダクトは2012年春にリリースされた。

 その名も「マネーブック」。

 イメージしたのは「フェイスブックのマネー版」のようなもので、個人が自分の資産でどんな金融商品を買ったり、投資したりしているのかを知り合い限定で公開し、ネットワークを広げていくという、今思えばなかなか刺激的なサービスだった。

 名前はニックネームで登録できるが、知り合いからつながるネットワークだから、お互いに誰かはだいたい分かる。「社会的に活躍している人が、どんな資産管理をしているのか知りたい」という好奇心に応えるもので、原型としてKaChing(現Wealthfront)というアメリカのスタートアップの事例があった。「他人の資産運用を参考にしながら家計管理をしよう」という発想で生まれたソーシャルトレーディングのサービスは、アメリカでは受け入れられて、有名なエンジェル投資家から資金を集めていたのだ。

 加えて、「マネーリテラシーについて学べる教育の機会が足りていない」という課題も各所で見聞きし、なんとかしたいという思いがあった。「人生の質を左右するお金の教育はぜひ受けたい。しかし、時間もお金もかかるし、多忙な社会人はなかなか行動には至らない」。この問題を、テクノロジーの力で解消できればいい。1つのアプローチとして、「家計管理や資産運用の上級者の“お金の内訳”を見ながら成功則を勉強する」というサービス提供をすることに意味はあるのではないか? そんな狙いも、この「マネーブック」にはあった。

 ネックは情報を守るセキュリティーの問題だったが、もちろん可能な限りの対策は取っていた。「家計や資産を見せ合うことに抵抗はないだろうか?」という疑問も容易に浮かぶはずだが、創業時特有の気分の盛り上がりの中ではすべての解釈は楽観に傾くもので、「日本は裸を見せ合う温泉文化があるのだから、資産を見せ合うのもきっと平気だよな」なんて言い合っていた。

 結果は、――惨敗。

 恐ろしいことに、僕らはいきなり誰も使ってくれないサービスをつくってしまった。いや、「誰も」というのはさすがに言い過ぎで、こんなアバンギャルドなサービスを触って楽しんでくれたユーザーもいた。しかし、その大半は僕ら創業メンバーの友達とその友達。ご祝儀の範囲を超えない人数で、50人にも満たなかった。

 ユーザーが増えない原因が「ここが使いにくい」といった解消可能な不便であれば、改善さえすればいいのだから希望は持てた。けれど、このときに僕たちがつかんだユーザーのリアクションはどれも、「使うのが不安」「すぐに退会したい。データを消して」といった利用自体に積極的になれないニュアンスを含んでいた。

 家族を説得してマネーフォワードにジョインしてくれた社員もいたが、彼は、その家族が使おうとしてくれないのだと苦笑いをしていた。

 今思えば、「マネーブック」は一部のマネーリテラシーの高い、新しもの好きの好奇心は確かに満たしたかもしれないが、皆が抱える課題を解決できるプロダクトでは全くなかった。

 リリースから2、3カ月たって、やめる決断をした。

 めったにないが、当時の顔ぶれで当時を振り返ることがある。中には、「時代が追いついていなかっただけ。今なら受け入れられるかもしれないぞ」と“復活”の希望を捨てていないメンバーもいるが、さて、どうだろうか。

続きを読む 2/3 売り上げゼロ、焦りからの方針転換

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