新しいサービスやイノベーションは失敗から生まれる――。創業から9年、1200万ユーザーを抱え、フィンテックで大きな存在感を持つマネーフォワードも、数々の失敗や困難を経験した。意気揚々と開発した新サービスは関係者しかユーザーがつかない、接続していたサービスから接続拒否される、大規模停電でユーザーの一部データが消えそうになるといった危機もあった。だが、胃がキリキリと痛み、眠れない日々を乗り越え、ユーザーに向き合ったから、大きく成長できた。マネーフォワードの辻庸介CEOが体験した失敗の数々を記した著書『失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと』から一部抜粋・再編集して掲載する。今回は、失敗に直面したときのリーダーのあり方について。

 僕は社長らしい社長じゃない。皆の上に立って、強い言葉で号令をかけ、パワーで引っ張れるタイプでもない。

 そんな何者でもない弱い僕でも、「お金の課題を解決したい」という思いを持って起業し、これまでになかったプロダクトを生み出してきた。その過程で僕らは、スタートアップを立ち上げ、時につまずき、転び、会社がつぶれるんじゃないかという失敗を数多く経験した。

 サービスが接続先からBAN(接続拒否)されたり、データセンター一帯の大停電で大事なユーザー(お客様)のデータが吹っ飛びそうになったり、共に社会を変えていく仲間だと思っていた競合スタートアップに訴えられたり、60人の社員を迎えて立ち上げようとしたサービスは参入を無期限の延期にせざるを得なかったり、改善のつもりでリニューアルしたサービスをたった1日で撤回したりもした。

社長発案のプロダクトで早々に撤退

 事業開発に関して、僕たちの典型的な失敗例を話しておこう。どちらも社長の僕が発案して始めた新サービス「Money Ask」と「mirai talk」の失敗経験だ。

 「『マネーフォワード ME』のユーザーが、お金についての悩みを、いつでもチャットで相談できるサービスがあったらいいんじゃないか?」

 Money Askはそんな発案から始まった。いかにも良さそうではないだろうか。ユーザーのニーズは大きいし、うまくいくのでは? と僕も期待していた。

 サービスリリースとともに、ファイナンシャルプランナー(FP)の方々にオフィスまで来てもらい、ユーザーから寄せられるチャットによる相談に答えてもらう体制を整えた。

 しかし、実際にやってみると、ニーズとのズレが徐々にあらわになったのだ。そもそも、お金の相談は簡単に言語化できるものではない。

 「どこか痛いところはないですか?」
 「肩こりがひどいです」

 そんなふうに身体症状を問診するのと違って、お金の悩みは表面には見えづらく、問題も非常に複雑だ。本当の悩みは何なのかを自分自身もきちんと分かっていないことも多く、人に説明するのはなおさら難しい。丁寧にヒアリングするコミュニケーションを要するのに、チャットという形式では不十分だった。

 僕らはいつも、「プロダクトマーケットフィットに到達できるかどうか」を考えている。いわゆる「PMF」と呼ばれるものだが、「顧客を満足させる最適なプロダクトを、最適な市場に提供している状態」を意味する。プロダクト開発は、ユーザーのペイン(課題・痛み)の発見から始まる。そのペインを解消できる価値を提供したいという思いがなければ、ユーザーに届くサービスにはならない。

 ところが僕らがつくったサービスは、見事なまでにPMFに到達しなかった。ということで撤退。しかし、この話にはまだ続きがある。

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