世界大恐慌の時代、全米のホテルの81%が破産したという。ホテル業界にとっては、コロナ禍の今と負けず劣らず、厳しい時代だった。

 そこで辛酸をなめながらも、大復活したのが、コンラッド・ヒルトン。「ホテル王」と呼ばれる、ヒルトンホテルチェーンの創業者だ。

 1929年、ヒルトンが巨大ホテルの建設を発表した、わずか19日後、ニューヨーク株式市場で株価が暴落。華やかな開業パーティーから1年足らずで、ヒルトンは「破産状態」に追い込まれる。急成長していたヒルトンの経営基盤は脆弱だった。『大恐慌の勝者たち』から抜粋してお届けする。

コンラッド・N・ヒルトンが、1963年、ロンドンにホテルを開業したときの写真。真ん中がヒルトンで、英国金融界の要人たちと言葉を交わしている(写真:ユニフォトプレス)
コンラッド・N・ヒルトンが、1963年、ロンドンにホテルを開業したときの写真。真ん中がヒルトンで、英国金融界の要人たちと言葉を交わしている(写真:ユニフォトプレス)

 コンラッド・N・ヒルトンは、誰もが知るヒルトンホテルチェーンを一代で築き上げた伝説の「ホテル王」だ。その名前を聞くと、お騒がせセレブとして話題を振りまくパリスとニッキーの「ヒルトン姉妹」が思い浮かぶ人もいるだろうが、2人はコンラッド・ヒルトンの曽孫にあたる。長男コンラッド・N・ヒルトン・ジュニアも、17歳だった女優のエリザベス・テーラーを見初めて結婚するも、わずか7カ月で離婚するなど、芸能ゴシップを騒がせたプレイボーイだった。

 そんな子孫たちの華やかで自由奔放な生活とは対照的に、ヒルトンの人生は苦難の連続だった。大恐慌に巻き込まれたヒルトンは、経営していた8つのホテルすべてを瞬く間に失い、「破産状態」になってしまったのだ。

 「あの1930年代の大恐慌が、私の生涯をかけた事業を、いくらかの成功の小山の上から、借金、屈辱、そして抵当の底なし地獄へと突き落としたのだった」と、ヒルトンは後に自伝に記した。

 しかし、ヒルトンは諦めなかった。不屈の精神で再起し、地獄の底から世界に冠たる高級ホテルチェーンを築き上げてゆくのである。そんなヒルトンの生涯から、ビジネスにおける逆境の乗り越え方を探るのが本稿の狙いだが、今回は前編。ヒルトンが破産に至るまでを振り返り、経営破綻の原因を考察する。

苦労人ヒルトン、進学を諦めて家業を手伝う

 コンラッド・N・ヒルトンは、1887年12月25日、ノルウェー移民の長男として、現在のニューメキシコ州サン・アントニオに生まれた。ヒルトンが19歳の時、父親が営んでいた雑貨業が破綻、一家は生活を維持するため事務所を兼ねていた自宅でホテルを始める。

 ダートマス大学に入学を予定していたヒルトンも、進学を諦めてホテルを手伝うことになった。駅に列車が到着すると、弟と共に客の呼び込みに向かい、宿泊客へモーニング・コールをするなど懸命に働いた。ホテルの食事は母親が作り、妹たちも手伝うという、家族ぐるみのホテル経営だった。

 このホテルを後年、「私の最初のホテル」と呼んだヒルトン。「これが、私がホテル業に足をふみ入れるきっかけでもあった」と振り返る。手探りで始めたホテル業だったが経営は順調で、一家は危機を脱することができた。経済的な余裕ができたことから、ヒルトンは地元の鉱山学校に進学する。その後は州議会議員になったり、銀行を設立したり、軍隊に入ったりと様々な経験を積んでゆく。

油田の町で質素なホテルを買い取る

 ヒルトンが、ホテル業に「戻った」のは偶然の出来事がきっかけだった。1919 年、31歳になっていたヒルトンは、テキサス州のシスコという町を訪れた。長旅で疲れ果てた体を休ませようと、駅前に見つけた「モーブリー・ホテル」に宿を取ろうとしたヒルトン。質素な2階建てのホテルだったが、折からの油田開発ブームに沸く地とあって、満室だった。

 しかし、ホテルのオーナーは不満げだった。「皆が石油で大儲けしている時に、こんなホテルに縛り付けられて大迷惑です。早く誰かに売り払って、石油掘りに出かけたいものです。一夜で百万長者になれるという時代に、こんなホテルなんて馬鹿馬鹿しい限りです」と。

 ヒルトンは、家族総出でホテルを経営していた頃のことを思い出した。そして、モーブリー・ホテルの買い取りを決意する。売値は4万ドル、家族や友人から金を借り、足りない分はホテルを担保に銀行から借りることで何とか調達できた。ヒルトンは母親に電報を打った。「フロンティアを見つけた。ここの水は深い」と。この小さくて質素なホテルが、「ホテル王」の出発点となるのである。

続きを読む 2/4 空きスペースの徹底活用、合言葉は「金を掘れ!」

この記事はシリーズ「マネーの教養「世界大恐慌の真実」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。