「相場は時間と価格の関数である」

 「相場は時間と価格の関数である。したがって相場のトレンドは計算することが可能である」としたギャンは、暗黒の木曜日を予言しただけでなく、その後の動きも的中させてい る。ダウ平均株価が大底を打つのは1932年7月8日のことだが、ギャンはその前年に「株式市場は(翌年の)3月に大底を打つ」と宣言し、32年6月には「これ以上の下落はない」として、買いを推奨した。

 しかも、ギャンは株式相場だけでなく、小麦や綿花などの商品相場でも、暴落や暴騰を 幾度となく予言し、的中させているのである。

 しかし、ここにたどり着くまでの道のりは、長く険しかった。投機を始めてからのおよそ20年間で、ギャンは取引に失敗して無一文になったことが40回以上もあったという。試行錯誤を経て、相場予測の精度を高めていったわけだ。

 こうしてギャンは、1933年、株式市場や商品市場で累計479回の取引を行って 422勝57敗、運用利回りは年率4000%という、驚異的な戦績を残すまでになった。

占星術にも学んだギャン、今なお信奉者多し

 第二次世界大戦後も投資を続けたギャンは、1955年6月、77年の生涯を終えた。亡くなる直前の5年間の勝率も9割以上だったという。ギャンは死の直前まで投資術に磨きをかけるだけでなく、多くの投資術の本を刊行したり、セミナーを開催したりして、一般投資家に向けた啓蒙活動にも力を入れた。

 相場のみならず、第一次世界大戦の終結や第二次世界大戦の勃発、大統領選挙の結果も 予言したギャンは、聖書の言葉や占星術にも学んだという。どこか「ノストラダムスの大予言」を彷彿(ほうふつ)とさせるようなところもあり、オカルトめいてもいる。しかし、その独創的なチャートや相場予測のテクニックは、今も投資家の間で広く使われている。筆者も銀行で為替ディーラーをしていた1980年代、ギャン・スクエアをよく参考にしたものだが、不思議なくらいによく当たったことを覚えている。

 もし、ギャンが今も生きていれば、ブラックマンデーやリーマン・ショック、コロナ ショックなどを予言したのだろうか。歴史に「もしも」はないので、結論は出ないが、いずれにせよ、暗黒の木曜日を予言したギャンの相場術は、今も多くの信奉者を持っている。1993年に刊行された『株価の真実・ウォール街 株の選択 ― W・D・ギャン著作集』(日本経済新聞出版)は、2021年の今(7月13日現在)も、絶版となった古書が高値で取引されているのをネット上で確認できる。

【参考文献】
『実践ギャン・トレーディング ― 相場はこうして読む』ジェームズ・ハイアーチェク著/日本テクニカルアナリスト協会訳(日本経済新聞出版/2001年刊)
『ギャン理論 ―すべての現象の中にルールがある』ジョージ・マクロークリン著/青柳孝直訳(総合法令/1996年刊)
『ギャンの相場理論』林康史編著(日本経済新聞社/1996年刊)

危機はチャンスも連れてくる。
今こそ学びたい「教養としてのマネー史」
株価暴落に備えはあるか!?

1929年10月、ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が暴落し、「世界大恐慌」が始まった。アメリカ経済は「失われた25年」に突入する。

しかし、「失われた25年」に苦しんだアメリカにも、がっちり稼いだ投資家、事業家はいた。

株価暴落を予知して大儲けした猛者もいれば、大損を教訓に投資手法を進化させたイノベーターもいた。デフレ経済を追い風に事業を拡大させた勇者もいれば、時代の大きな流れを捉えたビジネスモデルで、不況をものともしなかった賢者もいた。

彼らの本質的な勝因とは、何だったのか?

[主な内容]

【序章】データでたどる大恐慌の真実
第1章【投資編】相場師たちの撤退戦とバリュー投資の誕生
ジョセフ・P・ケネディ/バーナード・M・バルーク/ジェシー・L・リバモア/ベンジャミン・グレアム/ジョン・M・テンプルトン/ウィリアム・ギャン
第2章【事業編】恐怖とキャッシュをコントロールせよ
コンラッド・N・ヒルトン/J・ポール・ゲティ/デビッド・O・セルズニックとウォルト・ディズニー/ロバート・E・ウッド/大恐慌が生んだヒット商品
第3章【政治編】ケインズ政策の誕生と副作用
高橋是清/アドルフ・ヒトラー/フランクリン・D・ルーズベルト

この記事はシリーズ「マネーの教養「世界大恐慌の真実」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。