安価なIoT機器や通信ネットワークを使った“簡易版スマートシティー”の普及を目指すNTT東日本。2020年度から社員の自治体への派遣を始めた。「ソリューションを売り込む」という意識を取り払って行政の現場に入り込むと、これまで気づかなかった地域の課題が見えてきたという。地方発のイノベーションを実現するためには、プロダクトアウトの意識を捨て、先入観なくビジネスの種を探し出すことが重要だ。

 東京の西新宿にあるNTT東日本の本社に勤務する営業戦略推進室担当課長の小倉圭氏は、週1回のペースで山形県長井市役所にリモート出勤している。

 そこでの肩書は「長井市総合政策課デジタル推進室長」。内閣府のデジタル専門人材派遣制度に基づき、20年7月から市役所の嘱託職員に任命された。現在、この制度でNTT東から地方自治体に派遣されている社員は12人にのぼる。

 山形県南部の長井市は、人口約2万6000人。1995年までは3万3000人程度で推移していたが、その後人口流出に歯止めがかからなくなっている。市の東部にある長井盆地が中心市街地となっており、それ以外は山間部だ。小倉氏は市役所に新設されたデジタル推進室で、職員14人をまとめながら、IT(情報技術)を活用した地域課題の解決に取り組んでいる。

NTT東日本は低コストな無線通信ネットワークを使って地域の情報を集約する簡易版スマートシティーの構築を進める
NTT東日本は低コストな無線通信ネットワークを使って地域の情報を集約する簡易版スマートシティーの構築を進める

 小倉氏は「地方自治体の現場にはITに詳しい職員が少ないため、技術を活用して解決しようとはなかなか思いつけない」と話す。小倉氏はワークショップを開き、ITを使って課題解決を目指す意識の浸透を図っている。地方自治体がデジタル人材を欲する理由はここにある。一方、NTT東がこの制度に積極的に手を挙げているのは、外からでは気づきにくい地域の課題を、中に入り込むことで吸い上げようという狙いがあるからだ。

 NTTグループの中で地域の光ファイバー網など伝統的な固定回線インフラを担うNTT東は、音声通信が減少傾向で、それを補うデータ通信の伸びも頭打ちになっている。そこで地方自治体や中小企業をターゲットにしたソリューションビジネスを強化しようとしている。

簡易版スマートシティー、50自治体の採用目標

 特に力を入れているのが、農業や福祉、防災などの地域課題をIT活用で解決する簡易版スマートシティーで、23年度までに50自治体での採用を目標にしている。すでに山梨県山梨市や千葉県木更津市などで、LPWAと呼ばれる省電力の自営無線ネットワークを使ったスマートシティー化を進めている。

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